演劇研修所ニュース

第16期生沖縄国内研修レポート ~後編~

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ひめゆり平和祈念資料館前にて

2022年6月下旬、朗読劇『ひめゆり』(8月11日(木・祝)初日)の上演を控えた演劇研修所第16期生は、「全日本空輸株式会社による新国立劇場若手俳優育成のための国内研修事業支援」のもと、沖縄にて事前研修を行いました。

今年は、沖縄にとって本土復帰50年という節目の年にあたります。また、滞在期間中には、県内各地で平和への祈りが捧げられる「慰霊の日」を迎えました。5日間の旅程を通じ、より一層平和の尊さと、この記憶を次代にも繋がなければならないという使命感を胸に刻んだ意義深い研修となりました。

研修内容の様子を、前編・後編にわけてお届けいたします。

前編はこちらから


3日目


【見学場所】
轟壕・チビチリガマ・シムクガマ・嘉数高台公園(普天間基地見学)・佐喜眞美術館


沖縄研修3日目に、沖縄戦犠牲者の霊を慰め、世界の恒久平和を願う「慰霊の日」を迎えました。
県内各所で慰霊祭や式典が行われる中での戦跡をたどる行程は、とりわけ沖縄戦について様々なことを考えさせられるものでした。

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周辺住民の避難壕として使われていた轟壕を見学しました。
雨が降ると壕の中の地下川の水位が上がり、ごうごうと轟くような音がすることからこの名が名付けられたとのこと。

先に捕虜となった人の呼びかけに応じて投降し、数百名の住民が生き延びた一方で、泣き声をあげる小さな子がその命を奪われたり、餓死による犠牲者がいらっしゃったりと、この地に眠る方も少なくありません。
静かな暗闇の中で、この壕で過ごした住民たちに思いを馳せ、弔いの時間を過ごしました。


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チビチリガマ前

続いて、チビチリガマとシムクガマを見学しました。

どちらも住民が避難するために用いられたガマで、近距離に位置しています。前者では集団自決が、後者はハワイへの出稼ぎから戻ってきた住民2人が投降を説得したことにより、1000人の住民のほぼ全員が命を繋ぐという正反対の出来事が起きていて、対照的に語られています。 ガイドの方の切々とした語りに引き込まれながら、当時そこで起こったあまりにも惨い現実に、言葉を失いました。

沖縄にも戦争を知らない若い世代が増え、また観光客が増えたことで、ガマや壕が何度か遊び半分に荒らされてしまったお話も伺い、「『知らない』ことは罪である」という絞り出すような言葉も印象に残りました。
研修生は自分たちが主体的に「知り」「学び」「考え続ける」必要性をより強く実感した様子でした。


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宜野湾市一帯を臨む嘉数高台公園より

現代の沖縄社会を語る上で、基地問題について考えることは避けて通れません。

展望台から宜野湾市を一望でき、普天間基地を俯瞰することができる嘉数高台公園を訪れました。
なぜここに基地が必要なのかを考えながら、沖縄が今日でも抱える基地問題について研修生同士で語り合いました。

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続いて、丸木位里さん、丸木俊さんの「沖縄戦の図」が展示されている佐喜眞美術館を訪問。

館長の佐喜眞道夫様に絵の解説をしていただきました。
その後、屋上にて宜野湾市を眺めながら、基地についてのお話も伺いました。

なお、この模様はNHK沖縄放送局に取材いただき、ウェブサイトから動画にてご覧いただけます。



4日目


【見学場所】
ひめゆりの塔・伊原第三外科壕・伊原第一外科壕・山城本部壕・荒崎海岸・魂魄の塔・平和祈念公園(平和の礎)・ひめゆり平和祈念資料館

【その他】ひめゆりピースホールにて観劇

研修4日目は、ひめゆり平和祈念資料館館長の普天間朝佳様にご案内をいただきながら、「ひめゆり学徒隊」ゆかりの地を巡りました。

資料館前・ひめゆりの塔

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ひめゆりの塔前

最初に普天間様から、ひめゆりの同窓会が設立したひめゆり平和祈念資料館についての説明や鳥瞰図とともに、沖縄戦の推移や概要の説明を頂きました。

ひめゆりの塔の手前にある第三外科壕は、朗読劇の原作の手記本を執筆した作者のひとり、宮良ルリさんが最後にいた壕です。
この周辺の壕の中では最も大きく立派な壕と言われていたそうで、壕の前で、内部の様子や宮良さんは最後にどの辺りにいたのかなど、詳細な説明をして頂きました。

山城本部壕

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壕の奥には水が溜まっていました

最初から軍が確保していた壕で、そのために本部になったのではないかと言われています。

前日まで見学していた壕と比べると狭いものでしたが、地下川のようなものが流れていて、雨量によっては壕の奥に沼ができたそうです。

入口前で照屋菊子さんの証言「頭骨に祈る母」を朗読しました。

荒崎海岸

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荒崎海岸での朗読

学徒たちが追いつめられ、最後に自決した荒崎海岸。

さとうきびやアダンがうっそうと茂った海岸まで通じる長い道を歩きました。足元は石灰岩が絶え間なく続き、靴を履いていても足裏を突き刺すような痛みを感じました。

学徒たちは肌を傷つけながら、アダンの中に隠れて解散命令を聞いたとのお話を伺いました。

宮城喜久子さんによる手記「ふるさと」を朗読し、文中の「ふるさとの歌」は全員で歌いました。

魂魄の塔

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魂魄の塔は、沖縄戦の犠牲者の遺骨を集めた慰霊塔です。
敗戦直後、地域住民により県内各地に散らばった遺骨収集が行われたことにより建立されました。

遺骨の多くは、後年別の地に移されましたが、今なお遺族の方々は「慰霊の日」にこの地を訪れ犠牲者の霊を悼むとのことです。

県営 平和祈念公園

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平和の礎前

公園内にある平和の礎は、世界でも稀な、敵味方関係なく戦没者の名前が刻まれたモニュメントです。

研修生たちは、礎に刻まれたお名前の中から作中の登場人物を探し出し、石碑前で手を合わせていました。

ひめゆり平和祈念資料館

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台本を片手に熱心に
展示内容を読む研修生たち

最初に、朗読劇『ひめゆり』の原著作の作者であり、学徒隊として従事した、宮良ルリさんと仲宗根政善さんの証言映像を視聴しました。
沖縄戦当時の厳しい日々のお話はもとより、戦後、お二人がどのように過ごされ、沖縄戦の記憶を語り継いできたのかを知ることができました。 内部の展示室には、ひめゆり学徒隊の女学生たちの持ち物や制服のレプリカなどが並び、一同食い入るように見学しました。さらに、女学生ひとりひとりの遺影と身体的特徴や性格などが併記されたパネルを、台本を片手に朗読劇の登場人物と照らし合わせながら時間をかけて見学しました。



5日目


【見学場所】
航空自衛隊那覇基地・国立劇場おきなわ見学

【その他】国立劇場おきなわ 組踊公演観劇

研修最終日には、航空自衛隊基地内および9月に舞台に立つ国立劇場おきなわ小劇場を見学させていただきました。

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旧海軍砲台前にて

那覇基地では、最初に、航空自衛隊広報官の方より、那覇基地は国防上どのような役割を担っているのか、日々航空自衛隊はどのような業務を行っているのかレクチャーしていただきました。

日本で最も忙しい基地とのことで、スクランブルも日常茶飯事。国防の最前線のお話を伺うことができました。

また、今も問題になっている普天間から辺野古への基地移設問題についても、安全保障上の観点や自衛隊側からの見解を教えていただき、物事を多面的に捉えることもできました。

最後に、沖縄戦で使われていた中で、現在唯一現存する旧海軍砲台を見学しました。

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緑に囲まれ、開放的な雰囲気の国立劇場おきなわを沖縄研修の最後に訪れました。
小劇場内を見学し、舞台や客席の規模を本公演の前に体感することができました。

続いて、大劇場にて、琉球舞踊~花の舞~・組踊「花売の縁」を鑑賞。 琉球音階の調べに乗った地謡とセリフで、ゆったりとした琉球文化が感じられる公演を堪能し、沖縄の地を後にしました。

5日間を振り返って~研修生からの感想(後編)



  • 平和とは、祈ることではなく行動することなのだと思いました。もし、一人静かに、心の中で祈っているだけならば、壕の保存も遺骨の回収も平和祈念資料館の完成も、実現しなかったであろうと思います。先人たちの行動の積み重ねで、私も平和のバトンを受け取ることができました。今度は、公演を通して、また誰かに繋いでいきたいと思います。
  • 沖縄研修を経て一番感じたことは、俳優である前に一人の人間として、この「戦争」という問題を見つめ続けなければならないという事でした。
    今回、ガマや壕といった、実際に沖縄戦の戦禍にあった場所に行き、人間が想像を絶する生活をしていたことをガイドの方の語りから実感したと同時に、沖縄の素晴らしい景色や、そこに住んでいる人たちの温かみを感じることができました。
  • 戦争という大きなテーマを扱うことに対して、これまでは朗読劇『ひめゆり』の台本が、どこか自分のことと考えられていませんでした。
    しかし、現地に赴き、平和の礎の前で自分が演じる役ご本人のお名前を目前にし、手を合わせて、やっと向き合えたような、自分のこととして捉えられたような感覚があります。
  • 4日目に訪れた荒崎海岸での景色が忘れられません。どこまでも続く美しい青い海。ゴツゴツとした岩の上に逞しく生えている可愛らしい草花。この場所の77年前の景色はどんなだったのだろうと考えると、胸が締め付けられました。決して他人事ではない、沖縄で起きた事実を誠実に、舞台から伝えていきたいと思いました。
  • 沖縄の気候が自分の生活圏とは全く違い、さらに視界の彩度も、湿度もずっと高く感じました。このような空気感は、東京でデータだけ見ていてもわからないことで、現地で体験できたことは大きな収穫でした。
    研修中はほぼ毎日ガマや壕でのフィールドワークを行いました。色々なガイドの方からお話を伺ったことで、それぞれ違う視点からガマを見つめることができました。 ガイドの皆さんの伝え方、話し方は、これから朗読劇で観客に伝える側になる私たちにとっても、大変勉強になりました。
    航空自衛隊那覇基地の見学は、この沖縄研修の中で大きな意義のあることだったと思います。4日間、平和学習として、軍人ではない一般の方々の戦争への思いを学びましたし、米軍基地反対の意見も沢山聞きました。自衛隊も米軍も、ニュースになるのは悪いことばかりで、汗水流して走り回り、日本を守るために奮闘していることはほとんど報道されません。今回基地を見学して、日本の自衛隊制度、米軍基地問題について考え直すきっかけとなりました。

※一部抜粋



5日間の沖縄研修旅行を通し、研修生たちは朗読劇『ひめゆり』の作品への理解を深められただけでなく、現地の方々のお話を直に伺ったことで、より一層平和の尊さと、この記憶を次代にも繋がなければならないという覚悟を持ち、一人間としても一回り成長することができました。

第16期生たちは、沖縄研修で得た経験や感じたこと、考えたことを糧に、朗読劇『ひめゆり』に臨みます。
どうぞご期待ください。