2月修了公演『ドン・ジョヴァンニ』稽古場便り・連載④鳥尾 匠海
修了公演『ドン・ジョヴァンニ』(2月23日初日)では、研修生たちが役どころに正面から向き合い、その感性に全力で取り組んだ成果をご披露します。
3年次の第22期生たちにとってはこの公演が実質的なプロの歌手としてのデビューとなり、今後の歌手活動に大きく影響する大切な舞台となります。
現在、研修生たちは公演に向けて本格的にリハーサルを重ねています。
今回は、当公演が修了公演となる第22期生たちのコメントを連載でご紹介します。
今回登場は、鳥尾 匠海(第22期生)です。
〈皆様へのメッセージ〉
Viva la liberta(自由万歳)
これはドンジョヴァンニ劇中の台詞だ。
1789年に近づく時代に舞台の上で貴族が発するこの台詞。
この言葉を聞いた時、僕の頭の中には三本指を掲げた後の静かな革命が思い浮かぶ。
舞台を鑑賞していた貴族達はどう感じていただろうか。
彼らの中にはきっと正反対の感情、それこそあゝ無常だったに違いない。
モーツァルトとダポンテはどのような気持ちでいたのであろう。考えずにはいられない。
人間は品行方正に生きるべきであろうか。
いや、違う。
ドンオッターヴィオはドンジョヴァンニよりも魅力的で正しいのだろうか。
僕はそう思わない。
人間は所詮汚い生き物だ。
それは昔も今も変わらない。
しかし、だからこそ、人間臭い人物によって繰り広げられる恋愛模様と天才的な音楽が繰り出すドラマに僕らは心を動かされる。
個人的な話になるが初めて観たオペラが粟国先生演出のドンジョヴァンニだった。
そして奇しくも研修所最後の公演も粟国先生演出のドンジョヴァンニだ。
ここ、オペラ研修所では、舞台人としての在り方、厳しさを沢山教えていただいた。
自分の中の1つの区切りとして、そして新しい道への一歩として、この公演の稽古に励みたい。
鳥尾 匠海 Torio Takumi テノール【ドン・オッターヴィオ】
東京藝術大学卒業。『イオランタ』アリメリク役、『悩める劇場支配人』ジェリンド役、『ジャンニ・スキッキ』リヌッチョ役、グッチョ役で出演。レパートリーに『フィガロの結婚』ケルビーノ。
『ドン・ジョヴァンニ』リハーサル風景(写真右・鳥尾 匠海)
オペラ研修生による「LE PROMESSE 2021~アリアコンサート~」(2021年11月公演)撮影:平田真璃