バレエ作品紹介:「ニューイヤー・バレエ」『セレナーデ』
2020年1月「ニューイヤー・バレエ」公演で上演する、バランシン振付『セレナーデ』。チャイコフスキー作曲の美しい音楽「弦楽セレナーデ ハ長調」と一体となった、「見る音楽」と評されるバランシンの振付を堪能できる人気作です。
より一層公演をお楽しみいただけるよう、過去のアトレ誌に掲載された作品紹介を掲載いたします。
コール・ド・バレエの美『セレナーデ』 <文:實川絢子>
『DGV』と比較しながら鑑賞すると面白いであろう、ジョージ・バランシン振付『セレナーデ』は、アメリカにやってきたばかりのバランシンが振り付けた最初の抽象バレエであり、その後幾度もの改訂を経て、今なお世界中でもっとも多く上演されているバランシン作品の一つである。幕が上がって観客が目にするのは、幻想的な青白い月明かりの中、バランシン曰く「カリフォルニアのオレンジの果樹園のように」対角線状に並び、片手を掲げて佇む十七人の女性ダンサーたち。その手をゆっくりと眉のあたりに持ってきてから、胸を包みこむようにして両手を下ろすと、厳かにバレエの一番ポジションになる─女性がダンサーへと変化していく過程を描いたと言われるこの冒頭シーンは、数多くのバランシン作品の中でももっともアイコニックな場面といえるだろう。
美しい音楽の調べとともに、シンプルでありながらダイナミックなステップの数々が流れるように展開し、自由を象徴するかのようにたなびく女性ダンサーの髪や男女間の緊張感などが、抽象バレエでありながら観る者の想像力を大いに刺激する。バランシン曰く、「多くの人々が、このバレエに隠された物語があるのではと思っているようですが、物語はありません。そこにあるのは、美しい音楽と、それにのって踊るダンサーだけ。物語があるとすれば、それは音楽そのものが持つ物語であり、それが月明かりの中のセレナーデであり、ダンスなのです」* 。
世界最高水準と評される新国立劇場バレエ団のコール・ド・バレエの美を堪能するにはもってこいの作品といえるだろう。
*Balanchine, George and Mason, Francis, 101 Stories of the Great Ballets,Doubleday, 1954