バレエ作品紹介:「ニューイヤー・バレエ」『DGV Danse à Grande Vitesse ©』
2020年1月「ニューイヤー・バレエ」公演で上演する、クリストファー・ウィールドン振付『DGV Danse à Grande Vitesse ©』。今回の上演が日本初演となります。
より一層公演をお楽しみいただけるよう、過去のアトレ誌に掲載された作品紹介を掲載いたします。
ウィールドンの真骨頂 新制作『DGV Danse à Grande Vitesse ©』 <文:實川絢子>
バレエファンの間で新年の定番行事となった「ニューイヤー・バレエ」。オリンピック・イヤーである2020年の幕開けにふさわしい注目の作品が、新制作のクリストファー・ウィールドン振付『DGV Danse à Grande Vitesse ©』だ。2006年に英国ロイヤル・バレエ団で初演され、英国で由緒あるローレンス・オリヴィエ賞にもノミネートされたこの作品は、ウィールドン作品を代表する一幕ものの抽象バレエ。ウィールドンといえば、新国立劇場2018/2019シーズンオープニングを飾り、連日大盛況となった『不思議の国のアリス』をはじめ、『冬物語』、『シンデレラ』などの英国らしい演劇性に富んだ全幕バレエやミュージカル『パリのアメリカ人』の振付が特に有名だが、実はウィールドンの振付スタイルの真骨頂は、あくまで『DGV』のようなストーリーのない短いバレエ作品にあるとみる批評家も少なくない。
フランス語で「高速のダンス」という意味のタイトルは、フランスの高速鉄道TGVのパリ-リール区間を走る北ヨーロッパ線の開業を記念してマイケル・ナイマンが作曲した『MGV: Musique à Grande Vitesse』(高速の音楽)にちなんでいる。作品のテーマは、あくまで抽象的な意味における「旅」。一度耳にしたらなかなか頭から離れない、旅の高揚感にも似た前へ前へと駆り立てるような音楽が、26人ものダンサーたちをノンストップで突き動かしていく。
薄暗い明りに照らされたミニマルな舞台の奥に配置されているのが、英国ロイヤル・バレエ団の『ジュエルズ』の舞台美術を担当したジャン=マルク・ピュイサンによる、列車の形にも岩のようにも見えるメタリックなオブジェ。ダンサーたちは、その抽象的でありながらドラマティックなオブジェの前を、後ろを通過して内的な旅の風景の一部となり、まるで機械音のようなダイナミックなリズムを刻みながら、鮮烈で有機的なイメージを形づくっていく。
作品は5つのパートに分かれ、ダイナミックでエッジの効いたパ・ド・ドゥ、ロマンティックなパ・ド・ドゥなど、4組のカップルがそれぞれの異なる気質を表現したあと、最後にコール・ド・バレエが舞台に駆け込み、26人ものダンサーが一同に踊る圧巻のフィナーレを迎える。『シンフォニー・イン・C』などのバランシン作品にも似たこの構造は、かつてニューヨーク・シティ・バレエで踊った経験もあるウィールドンによるバランシンへのオマージュともいえる作品だろう。ウィールドンが流れるように使いこなす21世紀のネオクラシック舞踊言語のさざ波に身を任せ、ダンサーとともにあらゆる感情が喚起される旅に出てみてほしい。