バレエ作品紹介:マクミラン版『ロメオとジュリエット』Ⅰ


新国立劇場バレエ団では再演を重ねてきたケネス・マクミラン版『ロメオとジュリエット』。ご鑑賞の助けとなりますよう、過去のアトレ誌に掲載された作品紹介を掲載いたします。
今回は、新国立劇場バレエ団で初めてマクミラン版『ロメオとジュリエット』を上演する際に掲載した作品紹介です。

バレエが永遠のテーマをうたいあげる

シェイクスピアの名作「ロメオとジュリエット」といえば、誰しも甘い恋のときめきと運命に引き裂かれた悲劇の結末を思い浮かべるだろう。

四百年前に生まれたこの物語は、今なお変わることのない普遍的な愛の形を提示して、豊饒にして深淵な音楽に彩られたバレエへと昇華している。大編成のオーケストラが奏でるプロコフィエフの音楽は、精妙な心理描写を伴いながら圧倒的な感銘を呼び起こし、原作の味わいをさらに深化させたマクミラン版での上演でさらなる輝きを放つことになる。

                                      文◎林愛子(舞踊ジャーナリスト)

舞踊という言語をより深く、より拡げて
劇的な衝撃をもたらした鬼才マクミラン

2016年上演より
若い恋人たちの許されない恋をテーマにした「ロメオとジュリエット」は、シェイクスピアの作品中で最もポピュラーなものの一つといえるだろう。原作に忠実に映画化されたり、あるいはミュージカル「ウェストサイド物語」のように時代設定を変えた翻案がいくつも生み出されたり、シェイクスピアが書いたときから四百年以上経た今も、その人気は衰えることがない。

権力をめぐる複雑な世界とは反対側に位置する「ロメオとジュリエット」は、若者のひたすら純粋で豊かな感情がほとばしるドラマである。敵対する家に生まれてしまったために二人の出会いも結婚も最初から困難がつきまとい、やがて悲劇を迎える。このわかりやすく清澄な空気に包まれた物語には、いわば人間の永遠のテーマが見いだせるので、老若男女すべての人々が共感を覚えるのは当然のことであろう。そしてこういった題材こそ、バレエに最も適しているのはいうまでもない。

実際、多くの舞踊作家が魅せられて振付・演出を試み、世界には数十のバレエ「ロメオとジュリエット」が存在する。そのなかでも決定版として高い評価を得ているのが英国ケネス・マクミランによるものである。自身もダンサーとして出発したマクミランは一九五〇年代から振付を手掛け、一九六五年、英国ロイヤル・バレエのために振り付けた「ロメオとジュリエット」でその名を世界に知らしめた。すでにそれまでにナチ時代のドイツ人の物語「隠れ家」や、人の心の暗部を見つめた「ラス・エルマナス」のような問題作を作っていた鬼才マクミランらしく「ロメオとジュリエット」も、舞踊という言語をより深く、より拡げることで劇的な衝撃をもたらした。

第一幕より
例えば第一幕、舞踏会で初めて出会ってお互いにひかれたロメオとジュリエットが再会する庭園では、階段の下から見上げるロメオのもとへジュリエットが飛ぶように駆け下りていく。ロメオの胸の中に倒れこむジュリエットをロメオは抱きとめてそのまま次のステップに移っていく。いわゆるバルコニー・シーンとして知られる名場面だが、ここでは二人のあふれるような歓喜、信頼といったものがどんな台詞より雄弁かつ叙情的に語られ、バレエがバレエとして在ることを証明するかのようである。

この第一幕に対比して、第二幕の暴力的シーンではジュリエットのいとこのティボルトとロメオの親友のマキューシオの死が描かれ、第三幕の悲劇的終幕へと向かう。第一幕での若々しく美しい二人のパ・ド・ドゥは、幕切れでは痛々しく悲しい死にとって変わる。マクミラン版では、物語をなぞる愚に決して陥らず、全幕をとおして主役から群衆までの動きの一つひとつがそれぞれの置かれている状況や感情を表し、プロコフィエフのドラマティックな音楽と相乗してうねりのような迫力を生み出している。

こうして、二十世紀に創出された重厚で気品のある「ロメオとジュリエット」は今やグローバル・スタンダードとなった感がある。初演でマーゴ・フォンテーンとルドルフ・ヌレエフが踊った後、多くのダンサーたちがそれぞれの主役を創造してきた。さて二十一世紀、私たちはどんなジュリエット、ロメオに出会えるだろうか。それこそがバレエという舞台の楽しみでもある。


新国立劇場・情報誌 ジ・アトレ 2001年5月号掲載

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新国立劇場バレエ団『ロメオとジュリエット』

会場:新国立劇場・オペラパレス

上演期間:2019年10月19日(土)~27日(日)

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