転落と狂気へ―
私は堕ちていく。
「欲望」という名の電車にのってきた女、ブランチは暗がりに舞う白い蛾のよう。そして スタンレーは動物的な生きる喜びにあふれている。二人が出会うとき、激しく憎み合
うからこそ惹かれずにはいられない―。ニューオーリンズの場末、生臭い熱気の中で 展開する「欲望という名の電車」は、普遍的な葛藤を孕んだドラマとして世界中で上
演されています。作者、テネシー・ウィリアムズは「ガラスの動物園」「熱いトタン屋根 の猫」などで知られる、戦後アメリカを代表する作家。この「欲望という名の電車」は
ピュリッツアー賞などを獲得した彼の最高傑作で、ヴィヴィアン・リーとマーロン・ブラ ンド主演、エリア・カザン監督による映画化や、日本でも杉村春子の名舞台によって
人気の高い作品です。今回は、栗山民也が新国立劇場演劇部門芸術監督に就任し て初めて、満を持して演出する意欲作。さらに今世紀の生みだした最も魅力的なヒロ
インの一人、ブランチには樋口可南子、対するエネルギーに満ちたヒーロー、スタン レーには内野聖陽と、この上なく魅力的なキャストを揃えての舞台に期待は高まりま
す。ぜひお見逃しなく。
テネシー・ウィリアムズの「ガラスの動物園」を初めて演出したとき、改めてウィリアム ズの劇世界の拡がりとそれぞれの登場人物の求心的な密度を痛感した。第二次世
界大戦後の荒廃したニューオーリンズの風景の中を往来する多民族の混沌、そこへ 自分自身を脆くも失ったかのような白い蛾・ブランチの登場。これほど繊細なまでに
人間関係を縦糸・横糸に絡ませることで描いたドラマを他に知らない。名作はどんな 時代でも我々に人間をもう一度見つめ直す力を与える。―栗山民也
ものがたり
ニューオーリンズのフレンチクォーター、貧しいが、生命力に満ちた魅力ある一角。 「欲望」という電車に乗り「墓場」という電車に乗り換え、「極楽」で降りて、ブランチ・
デュボア(樋口可南子)は妹のステラ・コワルスキ(七瀬なつみ)の家にたどりつい た。二人は南部の大農園、ベル・リーブで育った、古き良き時代の上流階級の出で
ある。ブランチは妹の貧しく猥雑な生活に驚くが、ステラの夫でポーランド系のスタン レー・コワルスキ(内野聖陽)にとってもブランチの上品さは目障りでたまらない。二人
は出会った瞬間から反発しあい、緊張は高まっていく。スタンレーの友人のミッチ(永 島敏行)の愛に、過去から逃れてきたブランチは最後の望みをかけるのだった
が・・・・・・。 |