舞台サイコウ、人生サイアク。不世出のシェイクスピア俳優キーン。
1999/2000シーズン・演劇の開幕を飾るのは、19世紀初頭イギリスの演劇界に彗星のごとく現れた天才俳優エドマンド・キーン(1787〜1833)を題材にした、サルトルの名作「キーン 或いは狂気と天才」です。
本作品は、「三銃士」「モンテ・クリスト伯」の著者としても有名なアレクサンドル・デュマ(父)の戯曲「キーン」(1836年初演)を、サルトルが現代の感覚で大胆に書き直したもので、波瀾に富んだキーンの俳優人生がいきいきと展開していきます。また自らの哲学思想を前面に出すことなく、ドタバタ喜劇やシェイクスピアの劇中劇、恋愛騒動やサスペンスなど、演劇の面白さをふんだに盛り込んだ一級の娯楽作品として、サルトルはこの「キーン」を世に送りました。初演は1953年のパリ、サラ・ベルナール座。
今回キーンに扮するのは、圧倒的な演技力で観客を魅了し続ける現代日本の名優、江守徹。演出には話題作を数多く手がけ高い評価を得ている栗山民也を迎え、一流のスタッフと個性豊かな出演陣が結集する、上質なエンターテイメント作品が誕生します。加えて舞台には楽団による生演奏や、あらゆる階層の人々が放つエネルギーを充満させる当時のロンドンの街が登場し、さらに物語の臨場感を盛り上げていきます。
俳優としての名声を得る一方で、破天荒な人生を駆け抜けたエドマンド・キーン。天才と狂気の狭間に揺れた不世出の俳優を通して心温まる人間賛歌を謳いあげる「キーン」に、ぜひご期待ください。
ものがたり
英国演劇界のスター、エドマンド・キーンは、その天才的な演技とともに狂気ともいうべき破滅的な私生活を送る男としても有名だ。恋の浮き名を流した女性は千人に及び、酒は毎日浴びるほど飲む。諍い事が絶えず、金遣いの荒さから借金も天文学的な数字になっている。今もキーンはデンマーク大使夫人のエレナとの恋の駆け引きに夢中。人の恋路が気になってばかりいるプリンス・オブ・ウェールズは、特にキーンに対してはライバル意識をむき出しにして、エレナの気を引こうと必死だ。
そんなキーンのもとに突然、アンナという女優志願の娘が飛び込んできた。エレナのことで頭がいっぱいのキーンは、アンナを邪険に扱うが、無垢で率直なアンナはキーンの恋の相手は自分しかいないと告げる。
やがてキーンは、昔身を寄せていた大道劇団の救済のために急遽当たり役の「オセロー」を上演することになった。しかし、突然のことゆえ、相手役が不在で、目の前にいた素人のアンナにオセローの妻・デスデモーナ役をさせることになってしまう。大混乱の末「オセロー」の幕は開くのだが、舞台は予期せぬ方向へと転がり始める―。
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