──昭和20(1945)年。当時の日本では指折りの名門ホテル「箱根強羅ホテル」が、丸ごと日本政府に接収された。連合国軍から追い詰められた大日本帝国にとって数少ない中立同盟国であり(実は強大な仮想敵国でもある)ソ連邦の駐日大使館の緊急疎開先に指定されたからだ──
今シーズンのシリーズ企画「笑い」の第3弾、シリーズ中唯一の中劇場作品として、井上ひさしの新作が登場します。現代演劇史に屹立する名作を数多く発表し、新国立劇場柿落とし公演の「紙屋町さくらホテル」、東京裁判三部作「夢の裂け目」「夢の泪」傑作をたえず提供する劇作家・井上ひさし。
「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく」というモットー通り、重く深いテーマを、笑いに溢れた楽しい芝居として創作し続けています。さらに「夢の裂け目」以降、こまつ座制作で数々の演劇賞を受賞した「太鼓たたいて笛ふいて」、直近作の「円生と志ん生」など、“ドラマ・ウィズ・ミュージック”として従来以上に歌を多用した井上流音楽劇を豊かに開花させました。
──和平工作の成り行きは?頼りのソ連が参戦してくるようなことはないのか?(実はソ連は2月のヤルタ会談で秘密裡に日本への参戦を決めていたが、当時の日本は誰も知らない・・・・・・。)──
今回は、井上ひさし所蔵の膨大な資料の中から、元首相で後にA級戦犯で処刑された広田弘毅が戦争末期、箱根の強羅ホテルで、和平の仲介をソ連に依頼するための会談を秘かに持っていたという事実に刮目。戦争末期の悲惨な日本の状況を救うことが出来るのかというシリアスな問題を、チャイコフスキーなどロシアの名曲とともに、二重、三重に入り組んだ仕掛けの井上流の抱腹絶倒劇として描かれます。
井上ひさしならではの虚実ない交ぜで展開する、太平洋戦争史の裏側に隠されたもうひとつの戦争秘話が、華麗なキャスト、円熟のスタッフ、7人の演奏陣とともに繰り広げられていきます。
はたして誰がスパイなのか?味方は誰か?登場人物は怪しい者ばかり・・・・・・。食事のメニューに仕込まれたメッセージは?館内にあふれる色々なモノは何かの暗号か?疑惑が疑惑を呼び、大日本帝国の命運を賭けた戦いが、今、箱根強羅ホテルで始まる……。
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