『人間のもつ、広くて深い不可思議な感情、「笑い」をテーマにおくるシリーズの第1弾。昭和の人気劇作家・演出家の菊田一夫による不朽の名作『花咲く港』をお届けします。演劇『がめつい奴』や、ラジオドラマ『鐘の鳴る丘』『君の名は』などと並んで作者の代表作となっているこの作品は、古川緑波一座で昭和18年舞台初演、また映画化もされ、大好評を博しました。
舞台は九州に実在する甑島(こしきじま)。太平洋戦争勃発という暗い時代に突入していく世界状況を見据えながらも、希望をもって生きていくことの尊さや人情の深さを伝えるストーリーが、島民のエネルギーあふれる生活のなかに展開していきます。詐欺で大儲けしようと企む2人のペテン師が、心ならずも島の恩人にまつりあげられ、大騒動を巻き起こすユーモラスさに加え、誰もが持ち合わせる善と悪の心を温かな眼差しで真摯に問い質していくような、“花も実もある”珠玉の一作です。
いくつもの名コンビが誕生した2人のペテン師には、ともに新国立劇場初登場となる渡辺徹と高橋和也、外国帰りの謎の女性・ゆきに富司純子をはじめ実力派のキャスト陣と、繊細かつ劇的な調和を醸し出す鵜山仁の演出が、笑いと感動で心温まる物語に仕上げます。
ものがたり
九州、東シナ海に浮かぶ甑島に、今は故人となった島の名士の遺児と称して2人のペテン師がやってくる。彼らは、かつてこの島で行われた造船事業を再興したいと島民にもちかけ、島の旅館・かもめ館を拠点に資金を集め出した。彼らはその金を持ち逃げしようとしていたのだが、生来の善良さと弱気のためなかなか逃げ出せない。焦るうちにやがて世界状況は戦争勃発へ突入する。騙されていることを知らない島民たちの熱意で造船は着々と進行。2人はそんな島民たちの精神的支柱として奔走する羽目となっていく。
そんな折、ゆきという外国帰りの女性が娘を伴って島にやってきた。かもめ館の主人おかのはどうもゆきの素性を知っているらしく、彼女の配慮でゆきは、かもめ館で働きながら生計を立て始めるが……。そしてある嵐の夜、甑島の人々の運命はそれぞれに動き出した。
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