チリ出身のアリエル・ドーフマンは、『谷間の女たち』『死と乙女』『ある検閲官の夢』のいわゆる「抵抗三部作」でも世界的に著名な人気劇作家。新国立劇場のシリーズ「女と男の風景」のために書き下ろされた彼の最新作がいよいよ登場します。世界中至る所に、またいつの時代にも存在し、人生を狂わせる様々なBorder(ボーダー=国境・壁・差別・偏見など)。人間自身の中に存在し、時に全てを覆い尽くすボーダーの、その残酷さえ捉え、寓意的ながらリアルな筆致で著した自信作は、現代の我々が抱えるべき様々な世界の問題を、痛烈に描き出します。2002年日韓W杯開会式の演出を手がけ、今韓国で熱い視線を集めているが舞台化。
様々な演出を手がけ、韓国の伝統芸能を現代劇に取り入れたパワフルな作風で知られるが、世界初演となる本作にどのような空間を与えるのか、期待が高まります。日本人には実感の薄れがちな国境線を強く意識し、独自の感覚を持ったチリの作家、韓国の演出家が、日本の実力ある俳優たちと出会って誕生する「人間存在の過去・現在・未来」を次の世代へ…。
そこに見える普遍的な人間の姿が、新しい世界への発信となる作品です。
あらすじ
──とある時代のとある国で起こった物語。
二つの国の間では永年にわたり戦争状態が続いていた。国境の近くの小屋で、夫婦は遺体の身元確認作業を生業としている。戦死者が出るたびに遺体を部屋へ運び入れ、遺族のためにデータを取って埋葬しているのだ。若い男の死体を見るたびに行方不明の息子ではないかと探る妻。15歳の時に出ていったままの息子を、二人はずっと待っていた。自分が両国の血をひいていることを知った息子は、ルーツ探しのために母の故郷を訪ねると言ったまま、戻らなかったのだ。やがて、ラジオから待ち望んでいた停戦の知らせが流れた。
そして、突然、見知らぬ男が壁を破って進入してきた。驚きのあまり呆然とする夫婦の前で、男は国境警備隊員と名乗り、部屋を分断し、新たな国境をつくり始める。
そして…。
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