東京裁判を紙芝居屋さんの目から見るという発想から、それを音楽入りの叙情詩劇にするという表現を得て誕生した前作「夢の裂け目」(2001年5月)は、「時代と記憶」をテーマにした2000/2001シーズン小劇場新作連続上演のなかで、重いテーマを庶民の視点から大胆に問うた作品として高い評価を受け、多くの観客に支持されました。なかでも音楽劇という枠組自体を越えたえたその豊かな音楽性は、緻密に組み立てられたドラマのそれぞれの人物の心理を解放し、また説明的な舞台装置を積極的に排除することで、より拡がりの可能性を持たせた劇空間を創りました。
「夢の裂け目」は、井上ひさしがかねてから構想していた「東京裁判」をモチーフにした三部作の第一部であり、今度の第二部「夢の泪」は設定、登場人物等を変えながらも、井上ひさし独特の視点から、日本人を、日本の社会を考える舞台が描き出されます。とりわけ今回は、世界を大きく変えた「9・11」以降の世界全体が抱える問題ともいえる、東京裁判で日本が裁かれた「人道と平和に対する罪」について、さらに日本人にとっての戦争責任という大きなテーマを軸に、面白くも深い井上ひさしならではの世界が展開されます。
歴史的な裁判に関わらざるをえなくなった人々の敗戦直後の困難な生活を活写し、東京裁判の現代史的な意義を追求する深刻すぎて滑稽な音楽劇仕立ての重喜劇。演出の栗山民也ほか円熟のスタッフ陣、角野卓造・三田和代ら確かな演技で定評のある多彩な出演者を揃え、生バンドの演奏入りで軽やかに楽しく魅せる話題作を、どうぞお楽しみください。
東京裁判(正式名称「極東国際軍事裁判」)
昭和21(1946)年5月、太平洋戦争における日本のいわゆるA級戦犯に対し、連合国各国を代表する判事11名により開廷。昭和23(1948)年11月には、開戦時の首相・東条英機ら7名の絞首刑を含め25名に判決が下った。
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