演劇公演関連ニュース
『レオポルトシュタット』出演・浜中文一、音月 桂 インタビュー
『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』『コースト・オブ・ユートピア』など、知的で思索に満ちた戯曲群が世界中で上演され続けている英国の劇作家トム・ストッパード。2020年にロンドンで初演され、同年のオリヴィエ賞作品賞を受賞したストッパードの『レオポルトシュタット』が、小川絵梨子演劇芸術監督の演出で日本初演となる。描かれるのは1899年末から50年余をオーストリアで生き抜いたユダヤ人の家族・メルツ家とヤコボヴィッツ家の日常と、一族を常に脅かす差別と迫害の構図。ドラマの軸となる夫婦を演じる浜中文一と音月桂に、作品に臨む想いを聞いた。
インタビュアー:尾上そら (演劇ライター)
浜中文一
演劇でしか表現できない
ライブのエネルギーを届けられる作品に
―浜中さんは、二〇一八年の『マクガワン・トリロジー』(シェーマス・スキャンロン作)以来、二度目の小川芸術監督演出作品への出演です。
浜中 『マクガワン~』で小川さんに出会えたことは、俳優である自分にとって非常に大きな出来事でした。僕の中に漠然とあった戯曲や役への取り組みを、稽古する過程で自信の持てるものにし、「コレでいい、今感じているように演じていいんだ」と思い定められるよう小川さんは導いてくださった。いろいろな演出家の方がいらっしゃると思いますが、小川さんほど俳優に対してフラットに接し、精神的な支えになってくださる方は初めてで、心から尊敬しています。以来、またぜひご一緒させていただきたいと思い続けていたので、『レオポルトシュタット』でそれが叶い、非常に嬉しいです。
―作家であるストッパードの自伝的要素を含む、スケールの大きな家族の物語である今作。浜中さんはどのように読まれましたか?
浜中 まだ、しっかりと読めていないのですが、四世代に亘る二つの家族の相関図と第一場を読んだだけで、正直に言えば「難しい......」と思ってしまって(苦笑)。ユダヤ人独特の習慣や儀式のこと、当たり前の生活の裏で常に一族の人々がさらされている差別、革命やナチスによるユダヤ人虐殺などの歴史的事実など、自分の知らない要素がとても多いんです。また演じるヘルマン・メルツも、葛藤を抱える内面が複雑なキャラクターなんですよね。稽古をしながら史実や時代背景など、学ばなければいけないことがたくさんありそうです。
―今作のような史実に基づくものからファンタジックなものまで、浜中さんは多彩な舞台作品にご出演ですが、どのように役へと取り組み、何を手掛かりにされることが多いのでしょうか。
浜中 基本的には戯曲から受け取ったものを体現するため、必要なことを探していく感じです。背景など資料を調べることもあれば、それらを飛ばして感覚的に飛び込んでいくような時もあり、作品や役ごとに取り組みは変わります。今作への手がかりも探すのはこれからで、僕にとって難しい戯曲ではあるけれど、演出が小川さんなので不安はありません。
―初登場となる新国立劇場について、浜中さんの中にはどんなイメージがありますか?
浜中 「僕なんかがおいそれと立てない遠い場所」だと思っていました、なにせ国立ですし(笑)。でも小川さんが芸術監督になられた時から「いつかは」と、出演を望んでいた劇場ですし、ジャニーズ事務所の先輩方が何人も素晴らしい作品に出演してきた場所でもある。長く通われているような劇場ファンのお客様を裏切らない芝居ができるよう、精一杯頑張りたいと思います。
―確かに、「新国立劇場の作品だから」と信頼して観に来てくださるお客様は多いように思います。
浜中 以前、新派の『犬神家の一族』(二〇一八年齋藤雅文脚色・演出)に出演させていただいた時も、これまでお会いしたことのない落ち着いた年代のお客様がとても多く、その方たちに受け入れていただける演技をしなければと思ったんです。中劇場の舞台に立った時、客席からどんな波長が感じられるか、その場で自分にどんな演技ができるか楽しみです。
また、三十人近い大きな座組の作品も久しぶりで、二〇一九、二〇年に上演した『スケリグ』(ウォーリー木下演出)で共演した瀬戸カトリーヌさん以外、皆さんはじめましての方ばかり。小川さんの演出のもと、家族ならではの濃密な関係性をきちんと作り、演劇でしか表現できないライブのエネルギーを届けられる作品にしたいと思っています。
音月 桂
グレートルが持つ女性ならではの強さ
私自身も共感し、憧れます
―音月さんは二〇一九年の『オレステイア』(上村聡史演出)に続き、中劇場への二度目のご出演です。
音月 『オレステイア』の時は歴史のある、これまで舞台に立った俳優の方々の息吹が感じられる劇場で自分も演じられることが、まず非常に嬉しかったんです。緊張感と期待の両方が込み上げてくる場に、再び立てることに感謝しています。同時に、小劇場に出演させていただきたい気持ちもさらに募りました(笑)。
中劇場は二度目ですが、小川絵梨子さんの演出を受けるのは初めて。今年二月に『陰陽師生成り姫』(鈴木裕美演出)で共演した玲ちゃん(岡本 玲)は、小川さんの作品に何度も出演されていたので稽古のことなどうかがったところ、小川さんは「俳優に寄り添って演出してくださる方です」と。玲ちゃん(岡本 玲)のお話しぶりから小川さんへの尊敬の念が感じられ、小川演出での芝居づくりを早く体験したいという気持ちが強くなりました。ユダヤ人の一族の物語ですから、一人ひとりの俳優を大切にしてくださる小川さんのもと、座組全員で温かい家族のような関係性を作るところから始められたらいいですね。
―家族のドラマであると同時に、ユダヤ人迫害や戦争、ホロコーストなど歴史的に大きなトピックも含む戯曲ですが、音月さんはどのように受け取られたのでしょう。
音月 私自身にとって挑戦であり、成長のきっかけになる戯曲だと一読して思いました。私が演じるグレートルは非ユダヤ人のカトリック教徒で、外からメルツ家に嫁いできた女性。戯曲には書かれていませんが恐らく結婚への反対や、信仰に対する葛藤などいろいろと抱えているものが多いと思うんです。彼女を取り巻く環境や心情を理解するには、それら史実や宗教に関する知識が必要で、それはこれから大いに学ばなければならないところ。小川さんや翻訳の広田敦郎さんにも教えていただきつつ、小川さんが今、この作品を選び日本で上演することに込めるメッセージを、しっかり自分の腑に落としたいと思っています。
―グレートルについて、今お持ちのイメージをおうかがいできますか?
音月 "苦しい時でも、社会や世相を恨むよりも前を向く女性"でしょうか。人種や宗教の問題以前に、二十世紀初頭当時はヨーロッパでも女性の様々な権利がまだあまり認められていない状態。そんな環境下にも関わらず、グレートルは自分で考え、行動する意志とエネルギー、覚悟を持っていると感じました。
劇中後半では年齢を重ねるだけでなく、まるでメルツ家の衰退に重なるようにグレートルも弱っていくのですが、どんな状態になっても彼女は自身の核にある、しなやかさや気品はなくさないように私には思える。グレートルが持つ女性ならではの強さは普遍的なもので、私自身も共感し、憧れます。だからこそ彼女の内面を自分なりにしっかりと築いたうえで、演じる必要があると思っています。
―精神的なタフさに加え、女性としてとても魅力的だと戯曲を読んで感じました。
音月 確かに。夫ヘルマンとの出会いなどは劇中描かれませんが、障害が多かったはずの結婚に踏み切らせたことや、もう一人、夫妻に関わることになるフリッツとの関係もグレートルの魅力ゆえと考えることはできますね。その辺りは、ヘルマンを演じる浜中文一さん、フリッツを演じられる木村了さんにもご意見を伺いたいなあと...。彼女の「魅力」を体現するために、私自身にも磨きをかける必要があるかもしれません。今のところまだ、具体的な磨き方は思いついていないのですが(笑)。
新国立劇場・情報誌 ジ・アトレ 9月号掲載記事より一部改訂
<はまなか ぶんいち>
1999年にジャニーズ事務所に入所。関西ジャニーズJr.内のユニット・Veteranのメンバーとして舞台やコンサートに出演。2017年秋に関西ジャニーズJr.を卒業し、その後舞台を中心にドラマ、映画と幅広く活躍中。
【主な舞台】『テーバスランド』「浪花節シェイクスピア『富美男と夕莉子』」『シラノ・ド・ベルジュラック』「朗読劇『リクエストをよろしく』」「ロック☆オペラ『ザ・パンデモニアム・ロック・ショー~The Pandemonium RockShow~』」『月影花之丞大逆転』など。
<おとづき けい>
1996年宝塚音楽学校入学、98年宝塚歌劇団に第84期生として入団。2010年、雪組トップスターに就任。華やかな容姿に加え、歌、ダンス、芝居と三拍子揃った実力派トップスターと称される。12年『JIN─仁/GOLD SPARK!』で惜しまれながら退団。現在、様々なドラマ、映画、舞台などで活躍中。
【主な舞台】『陰陽師生成り姫』「Super Eccentric Girls『華- HANA -』」『ナイツ・テイル-騎士物語-』『フランケンシュタイン』『8月の家族たち』『十二夜』『ブラック・メリーポピンズ』など。新国立劇場では『オレステイア』に出演。
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『レオポルトシュタット』
会場:新国立劇場・中劇場
上演期間:2022年10月14日(金)~31日(月)
作:トム・ストッパード
翻訳:広田敦郎
演出:小川絵梨子
主催:文化庁芸術祭執行委員会/新国立劇場
後援:ブリティッシュ・カウンシル
出演:
浜中文一、音月 桂、村川絵梨、土屋佑壱、
岡本 玲、浅野令子、木村 了、那須佐代子
泉関奈津子、内田健介、太田緑ロランス、椎名一浩、
椙山さと美、鈴木勝大、鈴木将一朗、瀬戸カトリーヌ、
田中 亨、野口卓磨、松本 亮、万里紗、八頭司悠友
伊奈聖嵐、久住星空、高橋菜々音、塚越一花、
寺戸 花、根本葵空、前田武蔵、三田一颯
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