演劇公演関連ニュース
『東京ゴッドファーザーズ』演出・藤田俊太郎、インタビュー
ストレートプレイからミュージカルまで多彩な作品を手掛け、海外にも活躍の場を広げる気鋭の演出家・藤田俊太郎が新国立劇場に初登場! シリーズ「人を思うちから 其の弐」として、世界的に作品が高く評価されながら2010年に急逝したアニメーション作家・今 敏監督の『東京ゴッドファーザーズ』の舞台化に挑む。クリスマスの夜、新宿のゴミ捨て場で女の赤ちゃんを拾った3人のホームレス・ハナちゃん、ギンちゃん、ミユキ。拾い子の親を探して東京中を経めぐり、新たな出会いと偶然の再会を繰り返しながら3人がたどり着く「奇跡」とは? 大胆かつ野心的な創作の核心を訊いた。
インタビュアー:尾上そら(演劇ライター)
演劇化することに意義がある優れた作品がアニメだっただけ
─世界的な評価を得ている今敏監督のアニメーション映画。藤田さんが出会った時のことから伺えますか?
藤田 僕は今監督最初の劇場長編である一九九七年の『PERFECT BLUE』から、『千年女優』(二〇〇一年)、『東京ゴッドファーザーズ』(〇三年)、『パプリカ』(〇六年)、テレビアニメ『妄想代理人』(〇四年)と、全て劇場公開や放映をリアルタイムで観ています。はじめは『PERFECT BLUE』の、女性アイドルグループの一員だったヒロインが、女優に転身を図る過程で自我の崩壊に直面するという内容が気になって足を運んだのですが、緻密なプロットや美しい絵も相まって全ての作品からたくさんの刺激を受けました。その後、自分が演劇へと飛び込んでからも、今監督の作品をイマジネーションの源泉として振り返ることが多くありますし、海外でも『テネット』のクリストファー・ノーラン監督など、今監督作品からの影響を公言するクリエイターが多いこともうなずけます。
そんな方の作品を舞台化し、世界初演として新国立劇場から発信できるのは僕にとって非常に大きな喜びです。
─近年国内では、アニメーションやコミックを原作にした舞台が多数つくられ、「二・五次元」と呼ばれるような独自のジャンルを形成しています。今回の舞台化に当たり、そのことは意識されたのでしょうか?
藤田 ぜひ舞台にしたい、演劇化することに意義があると個人的に思った、優れた作品がアニメーションだっただけで、それが小説やドラマでも変わらない、というのが僕の見解です。今監督はこの作品を自身で分析した際、「多層的で多元的な価値観を持つ悲劇であり喜劇である」と表現していました。つまり、アニメーションという枠組みを持ちながらも、それにとらわれない多様な視座を作中に盛り込み、その先に新たな価値観を見出そうとしていたのではないかと僕は思うのです。そんな作品を舞台化し、生身の俳優たちが演じるライヴの表現にすることでさらなる多層をはらませ、原作が持つ悲劇と喜劇、相反する演劇性を原作とは別の発露で立ち上げることができると考えたのが、この創作の第一歩です。
ですからトリッキーな演出、カメラの視点で見せるなどといったことではなく、正当な台詞劇として舞台に現出させたいと考えています。
─確かに、捨て子の親探しを通して三人のホームレスが変化する過程や、自身を見つめ直す様子など厚みのあるドラマには、メディアが変わっても揺るがない骨太な魅力があると思います。
藤田 三人が親探しをするロードムービー的な部分には、現実で直面する格差や差別の問題、自分の出自や過去を問い直す必要性などが描かれており、それらを通して観客も、自身の現在地を見つめ直さざるを得なくなる。そんな今監督の「仕掛け」は、映画公開から二十年弱が経った今もまったく色褪せることがなく、むしろ現在の観客に一層響くものではないかと思っているんです。
─戯曲化は土屋理敬さんが手がけます。どのような指針で執筆されているのでしょうか。
藤田 登場人物の設定やドラマの流れを大きくは変えませんが、事が起きるのは二〇二〇年から二一年にかけて、私たちにとって一番近いクリスマス時期に移します。もう一つ、変化させる部分は東京のホームレス事情に関するところ。当時に比べ、街中でホームレスを目にすることが格段に少なくなっていると思いませんか?
─そうですね、ニュースなどでの報道の機会も以前より少ない気がします。
藤田 僕は大学で写真を専攻しており、二〇〇三年から〇四年にかけての卒業制作中の一枚が、「ホームレスに変装して東京の街を歩くセルフポートレート」でした。『東京ゴッドファーザーズ』の公開と時を同じくするのですが、当時の都内、新宿の中央公園や大学近くの上野駅周辺などには段ボールやブルーシートの家が多々あり、ホームレスの姿もあちこちで目にした。もちろん今もその姿がなくなった訳ではなく、ホームレスの暮らしぶりが定住から移動型に変わったというのが実情のようなのです。
今回の創作に当たり、かつてホームレスの姿が多かった地域を回ったり、村田らむさんの『ホームレス消滅』(幻冬舎新書)など関連書籍を読んだりしているのですが、そこから浮かび上がってくるのは、都市政策の一環としてだけでなく貧困ビジネスなどに取り込まれ、目に見える形でのホームレスは減っているかもしれないけれど、貧困層は形を変え、そのすそ野を広げているのではないか、ということ。この感染症禍では、これまでと違った理由で仕事や住居をなくす方々が増えたと思うのですが、そんな現状も照らすことで一層、自分たちの生活やその基盤となる社会の仕組みがいかに不確かであるかを突きつけられる。
路上に生きるホームレスと僕自身を隔てるものなど、そう多くはないのではという心もとない現実が、舞台化に際しての一番の違いで、そのため主人公の三人以外を演じる八人の俳優たちにも全員ホームレスを演じる場面がある、コロスのような役割の存在を配した劇構造にしようと考えています。
稽古の過程すべてを全員で楽しみ、舞台ならではの魅力を掘り下げたい
─ホームレスのコロス。私たち観客が足元を見つめ直さざるを得ない仕掛けです。
藤田 とはいえ展望のない、暗い世相だけを描くことは「悲劇であり喜劇」という今監督の意思に反することですし、ラストは飛び切りのハッピーエンドが待っているのが今作の魅力。実際、取材先で目にしたホームレスの方々の様子は、どちらかと言えば明るくあっけらかんとしたもので、皆さん屈託なく笑いながら酒を酌み交わしていたりするんです。そこには「今日を精いっぱい生きる」という覚悟と、それを共有する仲間がいるという事実があるのでは、と個人的には思える。それは僕らが今日を生き延び、明日を希望とするために必要なことと変わりないのではないでしょうか。
─他者への不寛容が社会問題になる今、私たちが忘れがちな共生や寛容の精神が作品を通じて雄弁に語られそうです。
藤田 そうなることを願っています。また、そんな願いを堅苦しくなく伝えられる俳優陣に参加していただけたのも嬉しく有り難いところ。ドラァグクイーンのハナちゃんを松岡昌宏さん、ギンちゃん役をマキタスポーツさん、家出少女ミユキを夏子さんが演じるほか、俳優としての出自もキャリアもそれぞれながら、素晴らしく演劇愛の深い八人の俳優さんにご出演いただきます。 硬軟自在に幅広い役と作品を演じる松岡さんは、その女装姿が国内全域に周知されている方ですが(笑)、そこに今ならではのボーダーレスなドラァグクイーン像も加わるので、さらに重層的な魅力を見せてくださるはず。マキタスポーツさんは多才かつ大きな喜劇性を内在しているにもかかわらず、演じることに真摯な印象のある方。演じ手のすべてが見える舞台に向いた俳優さんだと思います。夏子さんは若く、舞台経験もまだ少ない方ですが、同時に「演劇に愛されている」と思わせる魅力がある。それはつまり、演劇に携わる多くの人々にも愛されているということで、そんな人が頑なに心を閉じるミユキを演じる面白さも見せられるかと。稽古の過程すべてを座組全員で楽しみながら、今作の、舞台ならではの魅力を掘り下げていきたいと思っています。
新国立劇場・情報誌 ジ・アトレ 4月号掲載
藤田俊太郎 ふじた・しゅんたろう
1980年生まれ、秋田県出身。東京藝術大学美術学部先端芸術表現科卒業。主な演出作に『The Beautiful Game』『美女音楽劇人魚姫』『ミュージカル手紙』『ミュージカル ジャージー・ボーイズ』『sound theaterⅥ/Ⅶ』『Take Me Out 』『ダニーと紺碧の海』『ブロードウェイミュージカル ピーターパン』『LOVE LETTERS』 あ『ミュージカル「ジャージー・ボーイズ」イン コンサート』『ミュージカルVIOLET』(英国版/日本版)、『絢爛豪華祝祭音楽劇 天保十二年のシェイクスピア』『ミュージカル NINE』。『The Beautiful Game』(2014年)の演出にて第22回読売演劇大賞優秀演出家賞・杉村春子賞、『ジャージー・ボーイズ』(2016年)の演出にて第24回読売演劇大賞優秀演出家賞、『ジャージー・ボーイズ』『手紙2017』の演出の成果に対して第42回菊田一夫演劇賞、『天保十二年のシェイクスピア』『NINE』『VIOLET』の演出にて第28回読売演劇大賞最優秀演出家賞、第42回松尾芸能賞優秀賞演劇部門を受賞。
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会場:新国立劇場・小劇場
上演期間:2021年5月12日(水)~30日(日)
原作:今 敏
上演台本:土屋理敬
演出:藤田俊太郎
出演:松岡昌宏 マキタスポーツ 夏子春海四方 大石継太 新川將人 池田有希子 杉村誠子 周本絵梨香 阿岐之将一 玲央バルトナー
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◆チケットのお買い求めは......
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【全国公演情報】
穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
2021年6月4日(金)19:00、5日(土)13:00、6日(日)13:00
兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
2021年6月11日(金)18:30、12日(土)12:30 / 17:30
高崎芸術劇場 スタジオシアター
2021年6月17日(木)18:00、18日(金)14:00
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