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【インタビュー】『イタリアのトルコ人』ドンナ・フィオリッラ役 クラウディア・ムスキオ

ドンナ・フィオリッラ役 クラウディア・ムスキオ

ジ・アトレ誌7月号より

インタビュー・文●室田尚子 〈音楽評論家〉

2026/2027シーズン・オペラ公演のオープニングを飾るのは、ロッシーニのオペラ・ブッファの傑作でありながら日本では上演機会に恵まれない『イタリアのトルコ人』。トルコの王子とコケティッシュな人妻、その堅物の夫、さらに王子の元恋人が恋の鞘当てを繰り広げる大人のコメディだ。ヒロインのフィオリッラを演じるイタリアの若きプリマ・ドンナ、クラウディア・ムスキオに本作にかける意気込みやベルカント・オペラについての思いを聞いた。


ロッシーニのベルカント・オペラは私がもっとも愛するレパートリー


―2024年のシーズン・オープニング『夢遊病の女』のアミーナは、急遽代役での登場だったにもかかわらず、本当に素晴らしいパフォーマンスで感動しました。


ムスキオ 嬉しいお言葉をありがとうございます。新国立劇場での経験は本当に素晴らしいもので、また東京に戻って来られるのが待ちきれませんでした。チームは素晴らしく、まるでホームにいるように感じました。合唱団、オーケストラ、そしてこの劇場の音楽的・演劇的水準は本当に称賛に値しますし、世界的に高いレベルにあると思います。


『夢遊病の女』2024年公演より©堀田力丸

―今回はロッシーニ作品で、またベルカント・オペラを聴かせていただけるわけですが、ムスキオさんにとってベルカント・オペラとはどんなものだとお考えでしょうか。


ムスキオ ベルカントは私の個性や魂に最も近い、愛するレパートリーです。それは声楽の「学校」であり、習得すれば他のどんなレパートリーにも対応できる基礎を築くことができます。シンプルな中にも複雑さがあることがその大きな理由です。


―『夢遊病の女』を指揮したマウリツィオ・ベニーニさんも、「ベルカント・オペラとは声が音楽の中心にある」とおっしゃっていましたね。


ムスキオ ベニーニ氏との仕事は学ぶことばかりの素晴らしい経験でした。ベルカント・オペラは声がすべての中核にあります。声の表現力の可能性を極限まで試され、美しさを試され、歌手は超絶技巧を通じて自分自身の個性を表現できるのも面白さだと思います。


―ロッシーニの音楽の魅力はどこにあると思われますか。


ムスキオ 私のオペラ・デビューは22歳の時、ペーザロのロッシーニ・オペラ・フェスティバルのアルベルト・ゼッダ・アカデミーに合格し、『ランスへの旅』でのフォルヴィル伯爵夫人です。それ以来ロッシーニは私のいちばん好きな作曲家ですし、私はロッシーニ歌手だと自認しています。ロッシーニは、次の世代のベルカント・オペラの作曲家で彼から影響を受けていない人はないと言っても過言ではないほど、重要な存在だと思います。ロッシーニの音楽の魅力は、人間のあらゆる感情を音楽で表現したこと。そして、そのテーマが現代にも通じるものであり、それ以後の作曲家との架け橋のような存在だと思います。


『イタリアのトルコ人』のフィオリッラはとても近代的な女性なんです


『イタリアのトルコ人』2023年 テアトロ・レアル公演より

―『夢遊病の女』のアミーナは非常に純粋で、それゆえに夢遊病にかかり翻弄されてしまう女性でしたが、今回の『イタリアのトルコ人』のフィオリッラは浮気な人妻。正反対の性格ですね。


ムスキオ フィオリッラは一見すると軽薄な女性に見えますが、フェミニズムや女性の自由という視点では、実は非常に複雑で近代的な女性だと思います。彼女の結婚生活は停滞しており、だからこそ新しい刺激を求めるのです。現代人も退屈を恐れ、刺激や承認を求め続けていると思うので、彼女は時代を先取りしています。これは、ロッシーニがモラリストというわけではなかったからこそ描けたことではないかと思うのですが、彼女の欲望は、自由を求め続けること。物語の結末は、「人はどこまで自由になれるのか」「そもそも人間にとって自由とは何なのか」ということを観客に問いかけているのだと解釈しています。私はこの役を歌うことを本当に待ち望んでいたんです!


―今の日本の社会では、ちょっとでも間違ったことをした人をみんなで寄ってたかって糾弾するような、すごく窮屈な空気が蔓延していると思うんですが、こうしたオペラを観ると、誰もがみんな間違えたり迷ったりしながら生きていると感じます。


ムスキオ おっしゃる通り! オペラを観ていると登場人物に自分を重ねてしまうことがあると思うのですが、人間って200年経っても変わらないということがわかります。この作品には、現代社会の中では隠されている人間の欲望、本当は何を必要としているのか、ということが描かれているのではないでしょうか。人間の欲望は根本的に変わらなくて、社会が変わっていくことで、ある部分が隠されたり表に出たりする。オペラの良さはそういうところにもあると思います。


―結婚生活に倦み疲れている女性、というと私は真っ先に『ばらの騎士』の元帥夫人を思い浮かべるのですが、リヒャルト・シュトラウスが描いた女性がシリアスで心に刺さる存在であるのに対して、ロッシーニはすべてを笑い飛ばしているように思えます。


ムスキオ 笑顔と共にメッセージを伝えるのは、観客に届ける最良の方法かもしれません。観客は笑いを通して登場人物に共感を覚え、自分の人生と重ね始めます。人間は過ちを犯す生き物ですが、それを「間違いの喜劇」にして笑い飛ばすことができるのです。


ベルカントを愛してくださる皆様との出会いを心待ちにしています


―ムスキオさんは現在、ドイツのシュトゥットガルト州立劇場の専属歌手でいらっしゃいますが、イタリアとドイツの文化の違いのようなものをお感じになることはありますか。


ムスキオ 私は、イタリア文化の中で育ってきていたので、やはりシュトゥットガルトの専属歌手になるということは大きなチャレンジでもありました。古典的な演出が主流のイタリアの劇場に対して、ドイツは前衛的なプロダクションが多いですが、知的で優れた現代的演出もたくさん経験することができています。シュトゥットガルトは私のオペラ・ホームで、来シーズンには、今お話に出た『ばらの騎士』のゾフィーを初めて歌うことにもなっています!


―ムスキオさんのリヒャルト・シュトラウスもぜひ聴いてみたいです! イタリアとドイツの違いのひとつに食があると思いますが、日本の食についてはいかがですか。


ムスキオ 日本食が大好きです! ラーメンは大好きです。あとは和菓子。焼き菓子もおいしいですが、お餅系が大好きです。前回の来日の時には一度もイタリア料理を恋しいとは思いませんでした。


―最後に日本のファンの方にメッセージをお願いします。


ムスキオ 東京の観客の皆さんは信じられないほどあたたかく、情熱的です。2024年に私の歌を聴いてファンになってくださった方との再会が待ちきれませんし、イタリアのベルカントを愛してくださる皆さんとの新しい出会いがあると嬉しいです。


Claudia MUSCHIO
イタリア・ブレーシャ出身。フェッラーラ・フレスコバルディ音楽院修了。2017年ナポリ・サン・カルロ歌劇場『魔笛』パミーナでデビューし、続く18年にモデナ・パヴァロッティ劇場『セビリアの理髪師』ロジーナに出演、またペーザロ・ロッシーニ・オペラ・フェスティバル、カリアリ歌劇場などに出演を重ねる。20/21シーズンからはシュトゥットガルト州立劇場専属歌手となり『ドン・ジョヴァンニ』ツェルリーナ、『子どもと魔法』火/お姫様、『フィガロの結婚』スザンナ、『アルチーナ』モルガナ、『ファルスタッフ』ナンネッタ、『愛の妙薬』アディーナ、大成功を収めた『夢遊病の女』アミーナ、『魔笛』パミーナ、『リゴレット』ジルダなどに出演。23年のOpernwelt誌年間ベストシンガー、ベスト・ヤングシンガー賞にノミネート。21年ジェノヴァ・カルロ・フェリーチェ劇場『愛の妙薬』アディーナに出演。25/26シーズンは、シュトゥットガルト州立劇場『利口な女狐の物語』女狐、『リゴレット』ジルダ、『夢遊病の女』アミーナ、『カルメル会修道女の対話』コンスタンス、『セビリアの理髪師』ロジーナに出演する。新国立劇場へは24/25シーズン開幕公演『夢遊病の女』アミーナに急遽出演してデビューし、絶賛された。



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