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【インタビュー】『愛の妙薬』アディーナ役 フランチェスカ・ピア・ヴィターレ
飲めば愛される、とっておきの〝惚れ薬〞を手に入れたネモリーノ。
憧れのアディーナを振り向かせることができるのか?楽しい恋の騒動を描くベルカント・オペラ、ドニゼッティ『愛の妙薬』。
アディーナを演じるのは、フランチェスカ・ピア・ヴィターレ。ミラノ、ローマ、トリノ、パリなど名門歌劇場で活躍するイタリアの新星ソプラノが、初来日する。
これまでのキャリアについて、そして『愛の妙薬』について大いに語る!
クラブ・ジ・アトレ誌3月号より インタビュアー◎ 井内美香(音楽ライター)
私が舞台で初めて歌ったオペラ それが『愛の妙薬』
―ヴィターレさんがオペラ歌手になろうと思ったきっかけは何ですか?
ヴィターレ 私はナポリ近郊の出身です。両親は音楽家ではありませんが、音楽が好きで、子どもたちにも音楽を学ばせようとしてくれました。私は4人兄妹の3番目ですが、全員が音楽教室に通い、その中で私が音楽の道を歩むことになったのです。音楽院で最初はピアノを専攻していましたが、14、5歳の頃に先生がマリア・カラスの存在を教えてくださり、その声を聴いた瞬間、私は雷に打たれたようになりました。そして彼女が歌う『ノルマ』の「清らかな女神よ」を聴いた時、私の人生でやりたいのはこれだ!と理解したのです。その時から声楽を学び始めました。
―素晴らしい出会いがあったのですね。音楽院を卒業してすぐにスカラ座アカデミーに入られたのですか?
ヴィターレ はい。オーディションに受かった時、私はまだ20歳そこそこでした。それまで地元の小さな町で暮らしていた私がミラノに引っ越すことになって、両親はとても心配していました。でも、守られた家庭的な環境からスカラ座のような自己を形成するための場所に入ることは、この世界でやっていく力をつける上で必要なことだったのです。
―ヴィターレさんの歌唱を動画などで聴かせていただくと、レッジェーロのレパートリーにしては意外な、ドラマティックな響きがある声という印象を受けました。
ヴィターレ 確かに、それはある種の混乱を引き起こす原因にもなりました。私は高音域が得意で、声に柔軟性があるので、敏捷な動きのアジリタやコロラトゥーラを駆使して歌うことができるのですが、声質は暗めなのでレパートリーの選択が難しいのです。その点に関しては、スカラ座アカデミーの先生たちがとても有意義な指導をしてくださり、中でも名ピアニストのヴィンチェンツォ・スカレーラ先生にはとても助けられました。
―スカラ座アカデミー時代にはどのようなオペラに出演されましたか?
ヴィターレ 実は『愛の妙薬』は私が舞台で最初に歌ったオペラなのです! スカラ座の子どものための短縮版『愛の妙薬』のジャンネッタ役でデビューしました。その後、『愛の妙薬』の一般公演でまたジャンネッタを歌い、ローザ・フェオラ、ルネ・バルベラ、アンブロージョ・マエストリという素晴らしいキャストとも共演しています。2024年12月にはモンテカルロで、遂にアディーナ役にデビューすることができました。これは急な代役で、初日の10日前に連絡が来たのです。アディーナはレパートリーとして準備はできていましたが、それまで観客の前で歌ったことはありませんでした。それにカプアーノ指揮のルーヴル宮音楽隊の演奏だったので音律(ピッチ)も違ったのです。演出はダイナミックで、興味深いプロダクションでしたね。
―昨年5月にパリ・オペラ座の『リゴレット』公演にも、ジャンプインでジルダ役に出演されています。このような急な代役は、私などは想像しただけで心臓がドキドキしてしまいますが、その場ではアドレナリンが出て乗り切れるものなのでしょうか?
ヴィターレ 私は少し向こう見ずで、冒険を好む気質なのかもしれません。この種の経験はいつも楽しんでいます。確かに、予定通りのリハーサルを経て出演するプロダクションのような気楽さはないかもしれません。パリの場合は公演の前日に呼ばれました。当日に着き、夕方6時に演出のリハーサルをして、夜8時に公演を行うためには、いつもとは違う集中力が必要です。緊張感はありますが、ベストを尽くすしかないのです。終わった後には評価してくれる観客がいます。パリの聴衆はとても温かく私を迎えてくれ、終演後は多くの人が称賛の言葉をかけてくれました。忘れられない思い出です。
―現在はコロラトゥーラの役を歌われることが多いですね。ミラノ・スカラ座にもたくさん出演されています。
ヴィターレ スカラ座ではその後、チマローザ『秘密の結婚』エリゼッタ、マスネ『ウェルテル』ソフィー、チェスティ『オロンテーア』などに出演し、昨年10月には『リゴレット』ジルダを歌いました。『リゴレット』はアカデミー時代に小姓役で出演したことがあり、その後6年経ってジルダを歌えたことは本当に嬉しかったです。スカラ座のスタッフもとても喜んでくれて、この劇場は私にとってホームなのだと実感しました。
アディーナはあらゆる要素が要求される役
―『愛の妙薬』アディーナ役についてお聴きします。ヴィターレさんはすでにドニゼッティ『ドン・パスクワーレ』ノリーナや、ベッリーニ『カプレーティ家とモンテッキ家』ジュリエッタ、『夢遊病の女』リーザなどを歌われています。その中で、アディーナの特徴や難しさはありますか?。
ヴィターレ アディーナは、テクニック、表現力、息に乗せた発声など、あらゆる要素が要求される、完成度が高い役です。声ですべてを表すという難しさは、ドニゼッティの作品に共通していると思います。アディーナはキャラクターにも特徴があります。それは、彼女が物語の中で成長し、最終的には大きく違う性質を見せることです。音楽的には、第1幕の「イゾッタの物語」などはレガートで、滑らかな声で豊かなハーモニーを持って歌われるのに対し、最後のアリア「受け取って、私のおかげであなたは自由」の後半などは、輝かしい技巧的な表現が必要です。このような場面で使われるアジリタ(敏捷な動きの装飾歌唱)は、機械的に歌うのではなく、表現を伴っていることが重要になります。アディーナは、オペラの冒頭では気が強くて気まぐれです。そんな自己中心的だったアディーナに愛が訪れ、彼女の考えを変えてしまう。しかもその相手が、彼女自身が恋に落ちるとは思ってもいなかった、純朴なネモリーノなのです。
―『愛の妙薬』といえばネモリーノのアリア「人知れぬ涙」がとても有名で、観客の関心もそこに集中しがちです。このアリアがなければいいのに、と思ったことはないですか?
ヴィターレ もしこのオペラから「人知れぬ涙」を抜いてしまったら、いわば『愛の妙薬』の本質を取り除くことになってしまいます。この作品を知らなくても「人知れぬ涙」だけを知っている人は大勢います。それに、この曲はアディーナを思う気持ちを歌うものですから、私は嬉しいに決まっています。一昨年、モンテカルロではヴィットリオ・グリゴーロがネモリーノでしたが、彼がこのアリアを歌っていた時、私は感動で一杯でした。
―最後に、新国立劇場の観客へメッセージをお願いいたします。
ヴィターレ 今回の『愛の妙薬』出演は、私にとって初めての日本訪問になります。東京で歌うことが楽しみで待ちきれません。なぜなら日本の観客は、その聴く力の高さで有名だからです。『愛の妙薬』という作品がもたらす喜びを皆さんと共有できることを願っています。それはきっと、私にとって忘れられない体験になるでしょう。
フランチェスカ・ピア・ヴィターレ Francesca Pia VITALE
「OPERA WIRE」2022年オペラ界の新星トップ10に選出される。2020年ミラノ・スカラ座アカデミー修了。スカラ座へ『愛の妙薬』ジャンネッタでデビューし、『はじめに音楽、次に言葉』『ジャンニ・スキッキ』、『リゴレット』小姓、『子どものためのチェネレントラ』クロリンダに出演。スカラ座の20年秋シーズンには『椿姫』アンニーナに出演。その後アルチンボルディ劇場『ジャンニ・スキッキ』ラウレッタ、ヴェローナ歌劇場『椿姫』アンニーナに出演。22年には『夢遊病の女』リーザでヴィシー、アヴィニヨン、メス、ランスなどフランス各地に登場。スカラ座『秘密の結婚』エリゼッタ、パドヴァでは『カプレーティ家とモンテッキ家』ジュリエッタ、マスカット・ロイヤル・オペラ『フィガロの結婚』スザンナ、スカラ座『小舟に乗った恋人たち』チオマ、『ウェルテル』ソフィーに出演。最近では、バーリ・ペトルッツェッリ劇場とボルドー歌劇場で『ラ・ボエーム』ムゼッタ、パレルモ・マッシモ劇場『カプレーティ家とモンテッキ家』、トリノ王立歌劇場『ドン・パスクワーレ』ノリーナ、モンテカルロ歌劇場『愛の妙薬』アディーナ、ハノーファー歌劇場、パリ・オペラ座、ミラノ・スカラ座『リゴレット』ジルダ、ローマ歌劇場『羊飼いの王様』エリーザなどに出演している。新国立劇場初登場。
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