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【インタビュー】『椿姫』ヴィオレッタ役 カロリーナ・ロペス・モレノ
パリ社交界の華、高級娼婦のヴィオレッタが、アルフレードと出会って知った、真実の愛。しかし愛しているからこそ、別れを決意。そして病魔に冒され、本当の〝別れ〞の時が迫る―
ヴェルディの傑作『椿姫』を4月に上演!
ヴィオレッタを演じるのは、ソプラノの新星カロリーナ・ロペス・モレノだ。2021年にオペラ・デビューしたのち次々に大舞台で活躍し、ただいまスター街道を躍進中。待望の初来日を前に、これまでの歩みについて、そして『椿姫』についてうかがった。
クラブ・ジ・アトレ誌2月号より
「美しい声」とは、私の心から生まれ 人の心に届く声
―ロペス・モレノさんはドイツ生まれで、ボリビアとアルバニアの血をひく家系とうかがっています。多様なルーツや文化背景は、音楽家としてのあなたの表現にどんな影響を与えてきましたか?
ロペス・モレノ 言語はもちろんのこと、異なる文化的な背景の中、それも子どもが6人いる大家族で育ちました。ドイツ語、スペイン語、アルバニア語で育ち、学校ではイタリア語、英語を学びました。オペラを歌い、表現する上では、それぞれの言語への理解が大きな意味を持ちました。口角の使い方の違いが身についていたのも良かったと言えます。でも言葉以上に、異なる文化、考え方の中で育ったおかげで、多様性に対する理解はもちろん、異文化に対する好奇心も強くなりました。オペラ作品に応じて、それぞれの文化的な背景を学ぶのが大好きです。
―クラシック音楽を本格的に学び始めたのはいつ、どのようなきっかけだったのでしょう? オペラに初めて接したのはいつ頃ですか?
ロペス・モレノ 母は子どもたち全員に何かスポーツと楽器をひとつずつ選ばせて、習わせてくれました。私が最初に選んだ楽器はピアノ、それからヴァイオリンでしたが、夢見る少女だった私は、気がつけば気持ちを歌にのせて歌っていたそうです。それもR&Bとか大人の歌までも感情たっぷりに歌って、母を驚かせていたというのです。そんな私を見て母は、この子の楽器は声だと気づき、児童合唱団に入れたのです。こうして音楽の基礎教育を受け、私はミュージカルの舞台に立つまでになったのです。
―ミュージカルの経験は、今のオペラ歌手としての活動に活きていますか?
ロペス・モレノ 実は......ミュージカルの勉強のためにクラシック音楽の基礎発声や教育を受けていたのですが、周りの人から「オペラ歌手の声みたい」と言われるので、初めは自分の本当の声を隠していました。ところが、私の声を聴いた先生が「あなたはオペラの声を持っているのに、ここで何をしているの? 家に帰って『アイーダ』『ノルマ』『椿姫』を聴いていらっしゃい!」と言ったのです。そこで家に戻った私はそれらのオペラを片っ端から聴き、カラスに始まり、パヴァロッティ、カバリエ、サザーランドを初めて聴きました。そして3日間泣いたのです。クラシック音楽を勉強してもオペラとはほとんど縁のない日々を過ごしていたことを、どんなに悔いたことでしょう。そこから私のオペラの旅路が始まりました。ただし、舞台での動き方、演技はそれまでの経験が活きていると思います。なによりも、心から愛し、心が震えるものと私は出会ったのです。
―自分の声のどんな部分に「自分らしさ」を感じていますか?
ロペス・モレノ 難しい質問ですね。でも、周りの人々から「美しい声」だと言われて、美しいとはどういう意味かを考えました。それは人に心地よく響き、またオペラの役柄と乖離しない声、私の心から生まれ、人の心に届く声、でしょうか。私は今でも舞台に出る前に胸に手を当てて、自分に言い聞かせるのです。「さあ、信じるのよ!」って。
ヴィオレッタは「真実」を手にする「自由」が欲しかったのです
―シュトゥットガルト音楽大学、さらにその後ニューヨークのマンハッタン音楽院で学ばれ、瞬く間に世界のオペラ界の第一線で活躍されることになりました。この素晴らしいキャリアがひらかれたきっかけとは?
ロペス・モレノ ドイツでは、オペラ歌手としての土台となる教育を受け、音楽的研鑽を重ねる姿勢、音楽に対する献身といった多くの大切なことを学びました。その後、さらなるインスピレーションを求めた私は奨学金を得てニューヨークに行き、コンクールを受けたり、マスタークラスを受けたり、仕事としてのオペラ歌手の視野とネットワークを学びました。でもこの時期に推薦状を持ってイタリアで受けたドナータ・ダンヌンツィオ・ロンバルディからの指導は私の奥に眠っていたものを揺り起こし、私にとっての第二の衝撃となりました。このような経験を重ねる中で、オペラ歌手の四大マネージメントといわれる事務所から一斉に契約の申し込みを受け、今の事務所と契約しました。2021年に公式デビュー。その後、代役をひとつ務めると次の代役が来て、ついにはマエストロ・アントニオ・パッパーノやマエストロ・ズービン・メータのような素晴らしい指揮者と出会い、その推薦を受け、気がついたら英国ロイヤルオペラをはじめとする世界的な劇場の舞台に立っていたのです。2024年からは息をつく間もないほど、新しいレパートリーや舞台が続きましたが、自分でもどう乗り切ったのかわからないほどです(笑)。でも舞台がさらなる成長をもたらしてくれたことは確かですね。
―今回『椿姫』にご出演いただきますが、ヴィオレッタという人物をどのような女性として描きたいですか? 演出家ヴァンサン・ブサールのプロダクションは、「女性」の立場が大きく変わった現代だからこそ、「豪華絢爛な社交界と男性たちの奴隷」であったヴィオレッタが自由、社会からの解放を求め、そこから救い出してくれる「愛」を模索することに注目して、彼女の内面を丁寧に描き出すシンプルな舞台になっています。
ロペス・モレノ 『椿姫』の原案となったデュマ・フィスの作品も読みました。おっしゃるとおり、ヴィオレッタは自由を求めた一人の女性、というか人間でした。でも彼女の生きた時代の女性の選択肢はとても限られたものでした。おそらく彼女は、現代においても大きな問題となっている性的虐待を受け、実の父親に売春宿に売られてしまいます。そのように貧しく厳しい状況から脱するには、高級娼婦となり、お金持ちのパトロンを得るしかありませんでした。社会的にはその隣に座るのも汚らわしいと見なされる存在から、人々にもてはやされる立場に登り詰めたのです。そんな彼女だからこそ真実の愛を求め、その愛を得る真の自由がほしかったのではないでしょうか。ここで忘れてはいけないのは、彼女にはとても理性的な側面と精神的な側面があるということです。人々が彼女をもてはやすのはその美しさ故であり、その美しさははかないものであることを彼女は十分に認識し、同時に、自分は宗教的には許しを得られず罪人だという気持ちを抱いています。彼女はこの社会のルール、駆け引きをよくわかっています。でもだからこそ「真実」がほしかったのです。そしてその「真実」を手にする「自由」がほしかったのです。
―最後に、あなたのヴィオレッタを待ち望んでいる日本のオペラ・ファンにメッセージを。
ロペス・モレノ そんな風に言っていただいてうれしいです。私も日本に行きたくて仕方なかったのです。オペラで共演した仲間から日本の劇場の素晴らしさ、そして何よりもオペラ・ファンの皆さんのオペラに対する特別な思いと愛情の深さについてよく聞いています。そのような方々の前でヴィオレッタを歌うことは、オペラに対する私の思い、愛を伝えることでもあり、きっと共鳴し合えると思っています。桜の季節にお目にかかるのを楽しみにしています。
カロリーナ・ロペス・モレノ Carolina LÓPEZ MORENO
ドイツ出身のボリビア系アルバニア人ソプラノ。シュトゥットガルト音楽大学を卒業後、同大学オペラシューレ、ニューヨーク・マンハッタン音楽院、ダルトロ・カント・プログラムで研鑽を積む。エリザベス・コネルコンクール優勝のほか、ポルトフィーノ国際声楽コンクール、ヴィーニャス国際コンクール、メトロポリタン歌劇場ナショナル・カウンシル・オーディションなどで入賞。2022年にバーデン・バーデン祝祭劇場『カヴァレリア・ルスティカーナ』サントゥッツァに出演後、ワロン歌劇場『アドリアーナ・ルクヴルール』タイトルロール、『ファルスタッフ』アリーチェ、ナポリ・サン・カルロ歌劇場、カリアリ歌劇場『ラ・ボエーム』ミミ、トッレ・デル・ラーゴ・プッチーニ音楽祭、フィレンツェ歌劇場『蝶々夫人』タイトルロール、トリノ王立歌劇場『つばめ』マグダなど主要劇場に次々に出演し国際的に活躍。最近では、フィレンツェ歌劇場、ジェノヴァ・カルロ・フェリーチェ歌劇場『椿姫』ヴィオレッタ、フィレンツェ歌劇場、リヨン歌劇場『蝶々夫人』タイトルロール、ワロン歌劇場『フィガロの結婚』伯爵夫人、プッチーニ音楽祭『トゥーランドット』リュー、フィレンツェ歌劇場、ローマ歌劇場『ラ・ボエーム』ミミ、ケルン歌劇場『マノン・レスコー』タイトルロール、パレルモ・マッシモ劇場『アレコ』ゼムフィーラ、『道化師』ネッダなどに出演。今後の予定に、バーデン・バーデン・イースター音楽祭『ラ・ボエーム』ミミ、カターニア・マッシモ・ベッリーニ歌劇場、バレンシア・ソフィア王妃芸術宮殿『トゥーランドット』リュー、テアトロ・レアル『ファルスタッフ』アリーチェ、フィレンツェ歌劇場『シモン・ボッカネグラ』アメーリアなどがある。新国立劇場初登場。
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