オペラ公演関連ニュース

『ホフマン物語』タイトルロール レオナルド・カパルボ インタビュー


詩人ホフマンの3つの悲しい恋物語を甘美な音楽で描く、オッフェンバックのオペラ『ホフマン物語』。

幻想的な舞台で魅了するフィリップ・アルロー演出・美術・照明の人気プロダクションが、5年ぶりに帰ってくる。

主人公ホフマンを歌うのは、レオナルド・カパルボ。 2014年、大野和士指揮リヨン歌劇場日本公演『ホフマン物語』に出演するなど、ホフマンを当たり役としているテノールだ。大野オペラ芸術監督を"師"と仰ぐカパルボに、『ホフマン物語』の魅力についてうかがった。

ジ・アトレ誌1月号より

『ホフマン物語』はとても現実的な側面を持っている

 ― 『ホフマン物語』は当初2020年4月に上演を予定していましたが、世界的なパンデミックで中止となってしまいました。そしていよいよ2023年3月にカパルボさんのホフマンに会うことができます。

 カパルボ 私も日本にうかがうのをとても楽しみにしていただけに、中止はとても残念でした。でも、それだけに再び公演が実現することとなり、心から嬉しく思っています。

 皆さんと同じようにパンデミックはショックな出来事でした。私個人としても、今までのルーティーンががらりと変わってしまいました。公演から公演へ、街から街へ、国から国へと移動する日々から、自宅で静かに過ごす日々へと変わったのです。その上、本当のところ、一体何が起きているのか分からないようなところがありましたからね。でも運の良いことに私は健康でしたし、比較的早い時期から舞台に立つことができました。



 ― パンデミックの間はどのような活動をなさっていましたか?

カパルボ 初め、全ての公演が世界中で中止となりました。でも、ほとんどの劇場が閉鎖されていた中でマドリードやバルセロナで舞台に立つことができ、その後ドゥダメル指揮のベートーヴェンの「第九」にも出演しました。たとえ小さなアリアでも、人との距離を保っていても、そして客席は少人数であっても、聴衆の前で歌うことは本当に素晴らしいことです。人々と音楽を分かち合い、その中に身を置くこと、これは何にも代えがたいですね。もちろんストリーミングや放送で音楽を聴いていただけましたが、音楽の生まれる場に共にいることの素晴らしさを痛感しました。



― 『ホフマン物語』にはどんな思い出がありますか。

カパルボ 『ホフマン物語』と言えば、なんといってもマエストロ大野との素晴らしい体験を思い出します。音楽家としてはもちろんのこと、人間としても影響を受けました。私にとっての師であると言ってもよいでしょう。音楽に対する造詣の深さと豊かな音楽性、そしてマエストロが私に寄せてくださった信頼は、私にとって忘れられないものとなりました。

― ホフマン役はカパルボさんの当たり役であり、いろいろな歌劇場で歌っていますね。

カパルボ 伝統的でオーソドックスな演出から、一体どこに向かうのか想像がつかないような前衛的な演出まで、本当にいろいろな演出の『ホフマン物語』を経験してきました。新国立劇場のプロダクションの詳細についてはまだうかがっていませんが、心配はしていません。何よりも、『ホフマン物語』には多くの人々に訴える強い力、そして魅力があります。物語を自分の人生になぞらえて考えることもできるし、ひそかに夢見ていることをそこに見出すこともできます。夢物語のようでありながら、とても現実的な側面を持ったオペラです。

 ちなみに楽譜のバージョンについても、これまでにもいろいろなものを歌ってきました。上演時間5時間弱のジャン=クリストフ・ケック版を歌ったこともありますよ。



― あなたにとってのホフマン像とは?

カパルボ  演出家によってホフマンに求めるものは変わってきます。ただ、私自身がホフマンを演じる上で大切にしているのは、瞬間、瞬間、そして全てを観終わった後で、皆さんがホフマンをリアルに受け止めていただけるような存在感をもって、演じ、歌うことです。オペラにおいて、歌うことも演じることも同じくらい重要で、それが同時にできていなければなりません。オペラをご覧になる方々は、歌がうまければそれでいい、とは決して考えていらっしゃいません。そこにいる登場人物が生きていなければいけませんし、そこで展開される物語に引き込まれたいのです。そしてその舞台に立っているのは、レオポルド・カパルボではなく、「ホフマン」でなくてはならないのです。

どこかユーモアのある悪役たちホフマンの心が生み出したのかも



― ホフマンが恋に落ちた3人の女性(1人は人形ですが)についてはどのように理解していらっしゃいますか。

カパルボ  ここに出てくる女性たちはある意味、彼の潜在的な願望を具現化したものであり、そこには彼自身の姿も映し出されています。人は、自分の今の姿とは違うものを夢想し、体験してみたいと密かに願うところがあります。特にホフマンは詩人ですから想像力は無限で、そこに描かれる世界はとても美しいものになります。その裏側は美しいとは限りませんが。彼女たちは、彼の内側に潜む考えを表していると言ってもよいでしょう。

 その中のひとりが自動人形というのは、なかなかウィットの効いた設定だと思います。自動人形は作られたものですから、作った側は人形のすべてを理解していると思っています。ボタンを押すだけで人形は思い通りに動く、とね。ところが実際はどうでしょう。人形は違う動きをしたり、思わぬ行動をしたりします。つまり機械でさえも思い通りにできないのですから、他の人間を思い通りに操るなんて不可能なのです。これはまさに人間の思い上がり以外の何ものでもありません。機械の方が人間的かもしれませんよ(笑)。このように、他の2人の女性にしても、実はいろいろなことを暗示していると考えれば、この物語はより面白く見ていただけると思います。



― ホフマンは原作者E・T・A・ホフマンがモデルであり、成功に恵まれなかった当時の芸術家を彷彿とさせます。その一方で、作曲者のオッフェンバックは生前に社会的な成功を収めています。オッフェンバックはどのような思いで主人公を描いたのでしょう。

カパルボ  オッフェンバックはあの時代の多くの芸術家の姿を描こうとしたのだと思います。芸術家とは、成功しているように見えても、決して満足、安息を得られるものではないことも暗示している気がします。成功と言ってもいろいろな形があります。社会的に成功していても、それが当時の大衆向けの流行だったりすれば、よりシリアスで深遠なものを作りたいと願うかもしれません。オッフェンバックは成功したと言いますが、彼の内面までは分かりません。彼自身、人生における真実を追求し続けていたのではないでしょうか。

― 『ホフマン物語』で最重要な役はもちろんホフマンですが、彼以外で興味を引かれる役は?

カパルボ  具体的な役名ではありませんが、いわゆる「悪役」「恋敵」と言われる人たちです。考えてみてください。本当の悪者って誰なのでしょうか。それぞれの人生を想像し始めたら、誰が本当の悪者かわからなくなります。これは人生においても言えることです。もちろん演出によって視点は変わりますが、「悪人」の多くはどこかユーモアもあって、実はホフマン自身の心が生み出したものなのかもしれません。


― 最後に日本のオペラ・ファンにメッセージをお願いします。

カパルボ  日本は大好きな国です。さらにマエストロ大野の劇場に立てることは光栄なことです。オペラを愛し、その時間を大切にしてくださる皆さんと再びお目にかかれることを、心から楽しみにしております。



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