バレエ&ダンス公演関連ニュース
『ジゼル』/米沢 唯 インタビュー
ロマンティック・バレエの名作であり、吉田都舞踊芸術監督が初めて演出を手掛けて2022年に初演した『ジゼル』。
新国立劇場バレエ団にとって大切なレパートリーであるこのプロダクションを、4月に再演します。
全幕作品の主役に待望の復帰を果たす米沢唯が、会報誌で『ジゼル』への思いを語ったインタビューを、改めてお届けします。
取材・構成◎ 守山実花(バレエ評論家)
新国立劇場・情報誌 ジ・アトレ 2025 年2月号掲載

【『ジゼル』ほど ダンサーのありようが 問われる作品はない 】
新国立劇場バレエ団で『ジゼル』を踊るのは四回目になります。
ジゼルに限らず、役に対するイメージはどんどん変わります。基本的には踊りながら掴んでいきますが、踊れば踊るほどそのキャラクターが見えてくることもあれば、演じるのに苦労した役を、数年後久しぶりに踊ったときに、すっとその心情が腑に落ちることもあります。"変わる"という点では、バレエの見方もそうです。回る、跳ぶ......技術的なことに目が行きがちだったのが、歩き方や立ち姿、目線やちょっとした仕草など、そのダンサーの持つ個性や感性に魅力を感じるようになりました。 『ジゼル』は、ダンサーが異なれば時に物語も違うように感じられてしまう作品です。ダンサーの有りようがここまで問われる作品はあまりないかもしれません。作品自体も、第一幕は秋の豊潤で色鮮やかな生の世界、第二幕は色のない張り詰めた死の世界、と世界観がガラリと変わります。キャラクターも同様で、第一幕でのジゼルの恋や喜びは、第二幕には愛、悲しみ、赦しになる。若さの塊だったアルブレヒトは大人になり、嫉妬と苛立ちを抱えていたヒラリオンは後悔と苦しみというまったく異なる境地になる。こういった変化を、ダンサーは矛盾なく演じなければならず、また、自分の中から確固たるキャラクターを見出さなければなりません。"純愛のアルブレヒト"ならそれを貫かなければならないし、"遊び人のアルブレヒト"であるなら、遊び人であるが故の苦しみをどこかではっきりと見せないと。
【私の"ジゼル"を 見せられるのは 私だけ 】
踊りのことはコーチや先生方が指導してくださいますが、私の〝ジゼル〟を見つけるのは私にしかできない。第二幕で精霊となっても、オディールのように魔力を見せるための三十二回転があるわけでも、高笑いがあるわけでもありません。派手なテクニックや表現で見せるのではなく、もっと深いところ、言葉にできないところで成り立っている物語です。作品に「生と死」「愛と悲しみ」をいう枠組みがあり、その中でダンサーは好きなように演じられるという、ある意味度量が広い作品ですが、その分とても難しい。だからこそやりがいも感じます。 今回のアルブレヒト役は井澤駿さん。一緒に踊るのは久しぶりです。彼もいろいろなパートナーと組んでたくさんの経験をしていますので、お互いに以前とは〝変わって〟いると思います。今、再び一緒に踊るとどうなるか楽しみです。

【もっと踊りたい もっと挑戦したい 尽きないバレエへの興味 】
吉田都芸術監督の細やかな演技指導では、決められたことをきちんとやる、その先を求められています。綿密に考え、計算することは必要です。でも、それだけでは監督の求めるナチュラルな演技にはなりません。ある時点で、考え計算しつくしたことを捨てなければ いけない。それが監督のおっしゃる〝ナチュラル〟であり「演技を楽しんでほしい」ということではないか。そこに至るには大きな一歩が必要です。海から陸に上がる一歩とでも言えばいいでしょうか。舞台に上がる瞬間にその一歩を踏み出せたら、と思います。
バレエに対しての興味は尽きません。本当に面白くて、ますますのめり込んでいます。今まで知っていたつもりでも「こういうことだったのか」と気づくことがあります。都さんが芸術監督になられた当時、私に言ってくださったことが、今になってやっとわかったこともあります。バレエというものは、私にとって、どうやっても手の届かない美しい遠い存在で、憧れながらやみくもに踊ってきました。最近そこから細い蜘蛛の糸が垂れてきて、ほんの少しずつそれを手繰り寄せ始めたような気がしています。時間がいくらあっても足りない。もっと踊りたい、もっと挑戦したい。
【久しぶりの全幕主演 感謝を胸に 前に進みます 】
今回の『ジゼル』は、私にとって久々の全幕作品の主演です。しばらく遠ざかっていたので、わくわくしています。振り返ると、この半年間は愛おしい時間でした。つらいこともありましたが、それを上回る素敵なことがいっぱいありました。劇場の対応、監督の言葉、ダンサーたちの励まし、ファンの方々からのメッセージ、舞台に立った時のお客さまのあたたかさ......苦しかったことなんかほんの少しで、その何十倍もの素敵なものをいただきました。何物にも代えがたい時間を過ごしました。感謝を胸に、前に進んでいきたいです。
- 2024/2025シーズン『ジゼル』
2025年4月10日(木) ~ 2025年4月20日(日) 全9回公演
新国立劇場 オペラパレス
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2025年7月24日(木) ~ 2025年7月27日(日) 全5回公演
英国ロイヤルオペラハウス-
オフィシャルスポンサー:株式会社 木下グループ
オフィシャルエアライン:全日本空輸株式会社
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