バレエ&ダンス公演関連ニュース

Co.山田うん『オバケッタ』/山田うんインタビュー

ダイナミックかつ繊細なコンテンポラリーダンス作品を次々と発表し、国内外で活躍している山田うん。新国立劇場ではデュオやトリオの作品を発表し、2021年には自身が主宰するカンパニー Co.山田うんを率いて<大人もこどもも楽しめるダンス作品>として『オバケッタ』を初演しました。

前回公演の際に会報誌で掲載した、山田うんのインタビューを改めてお届けします。

インタビュアー◎稲田奈緒美(舞踊評論家)

新国立劇場・情報誌 ジ・アトレ 2021 年6月号掲載



obacheta_2.jpg
前回公演より 

人間って面白い オバケって怖くない ちょっと不思議なカタチの連続】

――「大人もこどもも楽しめる」というコンセプトの依頼を、どのように思われましたか?

山田 私は「子ども向け、大人向け」と考えて作品を作ったことがなくて、劇場にもよりますが「未就学児も観劇OK」にしたり、老若男女に門戸を開いてきました。また、長年の間、全国各地の子どもたちにワークショップを通じてダンスを届けています。でも「子どもも楽しめるもの」と規定された作品を作ったことはありません。だからこれは挑戦で、いろいろなことを考え直しました。子どもは日常の中でたくさん疑問をもっています。大人も実はそうなのに、いちいち考えていたら仕事ができない、日常生活が送れないから、すっ飛ばして生きていたりします。今回は、普段すっ飛ばしている小さな疑問、感動、をちゃんと意識化することから始めなくては、と思いました。


――『オバケッタ』のアイデアはどのように思いついたのですか?

山田 ダンスでは、生と死について考えたり扱ったりすることが多いと思います。私はいつも生命の儚さというものが、裏テーマとして存在しているので、わざわざ表のテーマにしたことはありませんでしたが、いつか「死」を温かく前向きな形でとらえて作品化したいと思っていました。また、カンパニーには個性的でエネルギッシュでオバケみたいなダンサーがたくさんいること。そういえばオバケと幽霊と妖怪ってどう違うんだっけ?など考えているうちに『オバケッタ』が立ち上がりました。


――子ども向けの作品で「死」を扱うことに、抵抗を感じる人もいるのでは?

山田 子どもって意外と、そういう区別がないかもしれない、と思っています。自分の幼児体験を思い出しても、草花とか虫とか、友達とか、周りにいるものの生死の境目に対して、大胆な行動をとってしまうことがある。それは人間にとって本質的な部分であって、何かそうしないと前に進めない、というようなところがある。生きることと死ぬことの折り合いの付け方は、学校で教えてもらえない。身近な人が亡くなるというような体験がない限り。一方で、東京にいると毎日のように人身事故があり、それに慣れてくる。そういうことに麻痺したくないな、と考えるうちに、死、幽霊、オバケ、妖怪のテーマにたどり着きました。子どもから大人まで、どこの国でも、みんな一貫してそこに興味とか親近感があると思う。そこを突き詰めてみようかな、と。


――この一年、世界中がコロナ禍で、改めて「死」について考える機会が増えました。優れたアーティストには時代を予見する嗅覚がありますが、このテーマはコロナ禍の前に考えられたのですね。

山田 シーズンプログラムとして発表した直後にコロナ禍が始まりました。ですから作品のテーマが、「死を茶化している」または「あえてそのテーマにした」という風に捉えられたらどうしよう、と不安にもなりました。でも、アイデアを変えることはありませんでした。

 私には十代のころから、身近な人の死の体験がいろいろな局面であります。一番新しい体験だと、目の前で段々と死に近づいていく人の身体をずっと触って、抱きしめている中で亡くなっていくという体験をしました。そういう身近な、大切な人が亡くなるという体験を通じて、悲しいとか苦しいとか、どんな言葉にも当てはまらない整理できない感情からどうすれば解き放たれるだろうか、と考えてきたんです。自分の体験を、泣いたり、感情的に表現するのではない方法で描くことができたら、自分にとって救済になる。まずは自分自身を救うことが、誰かのためにもなるかもしれない、という気持ちもありました。

 苦しい、寂しい、悲しい、悔しいとか、ネガティブな感情も含めて自然現象だと思うので、我慢しちゃいけない。でも、我慢しないで暴れるのではなく、そのエネルギーをダンサーの身体で、舞踊という表現によって感覚的なもの、体験的なものにしたい、と思ったんです。


――ダンスで感覚的に、体験的に表現するとは、どういうことですか?

山田 ストーリーや気持ちを伝えるのではなく、舞踊的な動きと音楽と色彩で、まるで一緒に冒険したような気持ちを見ている人の体に湧き上がらせていく、ということですね。ダンサーたちが重力から解放されたような動きをすることで、生きている人間がオバケのようにもなれる。それを見ている人はそこに立ち会うことで「オバケを見た」という体験をしたように感じる。でも実際にそのオバケ、怖くないな、面白いな、みたいな。日常的と地続きの、夢のような、ちょっと不思議なカタチの連続。そういうダンスによって、死ぬこととか人生も含めて、人間って面白い、オバケって怖くない、ってなるといいな、舞台に登場するオバケたちが、子どもの見えている世界と、大人の見えている世界を繋いでくれるといいな、と思っています。

どんなオバケが出てくるか お楽しみに】

――具体的にはどのように創作を始めたのですか?

山田 今回、舞台美術を担当するのは阿部健太朗さんと吉岡紗希さんによる二人組の絵本作家で美術家の「ザ・キャビンカンパニー」さん。舞台美術のデザインも、私とご一緒するのも初めてなので、共通の土台を作り、世界観、大切にしているものを共有したいと思って、まず台本を書いてみました。本当は絵本を作れればよかったけど、私には描けなかったので。台本には台詞みたいな言葉を書いていますが、実際に喋るわけではなくて、その骨組みをベースにしながら打ち合わせをしたり、ダンサーたちと動きを組み立てて、振付を考えているところです。音楽のヲノサトルさんとの打ち合わせにも台本を使っています。どこを抽象化するのか、歌や言葉を入れるのか、インストにするのかなど、音楽を制作するために、今の台本は第二稿ですが、さらに第三稿が必要かな、と思っているところです。

――台本を拝読しましたが、本当に楽しい。情景が浮かんでくるし、歌詞が韻を踏んでいるところでは、ついついリズムを取ってしまいました(笑)。いつも台本を作るのですか?

山田 いえいえ、台本を書いたのは初めてです。お恥ずかしい(笑)。歌のイメージで書いたところもありますが、ダンサーが歌うわけではなくて、歌のように踊ってほしいということです。ダンサーは、振付を考える時にどんどんアイデアを出してくれます。あまり言葉に縛られすぎると、頭でっかちになってダンスを縛ってしまうけど、ベースとなる台本があると、どこへ向かえばいいのかはっきりしている。脱線しないで、この世界観を膨らませよう、と。いわば楽譜みたいなものですね。

――カンパニーのダンサーは、ダンスが素晴らしいだけでなく、個性的な方ばかりですね。

山田 そうなんです。得意なものも、バックグラウンドも、筋力や柔軟性もみんな違う。そういう不揃いさが、オバケでより強調されて、いつも以上に個性が発揮されるのではないかな。みんなが一斉に踊るシーンもたくさんあります。どんなオバケが出てくるのか、ダンス、音楽、衣裳、美術といったワクワクドキドキの仕掛け、まるで巨大な絵本を開いたかのような、ユーモアの結晶をいろいろな方に楽しんでいただきたいと願っています。

obacheta_3.jpg

2024/2025シーズン Co.山田うん『オバケッタ』

2025年3月29日(土) ~ 30日(日) 全4回公演
新国立劇場 小劇場

2025年4月5日(土)14:00
iichiko総合文化センター(大分県)

2025年4月12日(土)14:00
まつもと市民芸術館(長野県)

公演情報はこちら