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吉田都舞踊芸術監督が語る2022/2023シーズン

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吉田都舞踊芸術監督のもと、設備、公演回数、医療サポート、舞台メイクなど、さまざまな改革が進む新国立劇場バレエ団。

その成果が着実に花を開きつつあるなかで、まもなく2021/2022シーズンを終える。

そして迎える吉田監督の第3シーズンである2022/2023シーズンは、伝統をリスペクトした『ジゼル』、ダンサーにとって挑戦的作品となる『A Million Kisses to my Skin』、新作『マクベス』を含む「シェイクスピア・ダブルビル」といった新制作と、レパートリー作品3演目で、さらなる充実の舞台をお贈りする。

ダンス3公演とともに、新シーズンの展望を語る。

インタビュアー◎守山実花(バレエ評論家)

よりよい舞台を目指して 設備、医療などさまざまな取り組み

――吉田監督は就任以来、様々な目標を掲げ、新たな風を送りこんでいらっしゃいます。2021/2022シーズンを振り返って、達成できたこと、手応えを感じていらっしゃることをお話しください。


吉田
 まず挙げたいのは医療面の充実です。ダンサーが怪我をしても状態がすぐわかるようになり、舞台に復帰できるのか、違うキャストに変更しなければならないのか、判断がしやすくなりました。全国公演では現地の医療スタッフがついてくださり、何かあったときに対応できる体制が整えられ、安心感をもって臨めるようになりました。

ダンサーが身体のことを知るための医療セミナーは定期的に行っており、今後も続けていきたいと思います。自由参加ですが、筋力強化のトレーナーや、ジャイロ、ピラティスの先生にいらしていだき、トレーニングマシンも使えるようになりました。身体のケアの面ではだいぶ前に進んだのではないかと思っています。

特に嬉しいのは、新しいスタジオを増設できること。今後さらに公演数を増やしていくためには新しいキャストを組んでどんどんリハーサルしていかなければなりませんので、既存のスタジオだけでは足りませんでした。スタジオが増えることに伴い、ダンサーを引っ張っていけるスタッフの強化もしていきたいところです。公演回数は着実に増え、来シーズンは59回の予定になっています。

メイクに関しては、チャコットさんにご協力いただき、日本人にあったメイクの開発やテクニックの向上に務めていますので、これからの時代のバレエメイクを新国立劇場から発信できたらと思っています。『シンデレラ』でも指導の先生が、義姉たちのメイクについて、今の時代に沿ったものにしていくと話され、誇張したつけ鼻も取りましたので、私がやろうとしていることは方向性として間違っていないと嬉しくなりました。

――これまでの取り組みがどんどん実を結んでいますが、今後さらに力を入れたいのはどのようなことでしょうか。


吉田
 リハーサルのない時期に、新たにパ・ド・ドゥのクラスを取り入れました。見様見真似ではなく、先生にきちんと教えてもらうことで、まだ経験の浅い男性ダンサーがいろいろなことを学べますし、女性にもサポートのされ方、持たれ方を学ぶ機会が必要です。新しい作品にはどんどん難しいリフトも出てきますし、今後はバレエ研修所と連携してパートナーリングの強化を図り、いろいろなことに対応できるようにしたいと思っています。

作品についてレクチャーを行い、振付家の意図やスタイルについてダンサーが学び、作品への理解を深める機会をつくることも大事にしています。例えば『シンデレラ』では、星の精の群舞を踊るダンサーたちに、シャープなだけでなく、優しく温かく、キラキラ輝いているイメージを繰り返し伝えました。私がシンデレラを踊っていたとき、星の精たちは舞踏会にもついてきてくれ、最後までずっと一緒にいてくれる温かい存在だと感じていましたから。どういうイメージなのかを伝えることで、舞台で醸し出されるものも変化していくと思います。

最近では、ウクライナ情勢の中で帰国を余儀なくされているダンサーたちにレッスンの場を提供しています。コロナ禍で外部からの出入りを厳しく制限しているにも関わらず受け入れを認めてくださった劇場には、感謝しかありません。

『不思議の国のアリス』では久しぶりにゲスト・ダンサーにいらしていただきましたが、皆がワクワクしているのを感じましたので、ゲストを呼ぶこともバレエ団にとって大事だと改めて思っています。

また、各作品で抜擢したダンサーたちがよい舞台を見せてくれたのもとても嬉しいことです。これからもダンサーたちのいろいろな面を見たいですし、チャンスをあげたいと考えています。

演じることの醍醐味を感じる 新シーズンのラインアップ

――そして迎える3シーズン目は、新制作も多く意欲的なラインアップとなりました。監督ご自身が演出される新制作『ジゼル』でスタートします。


吉田
 この2年、一緒に仕事をしてきて、ダンサーたちに何が必要なのか、どういう作品が合うのかもわかってきましたので、新しく入れたいものや再演もの、全体のバランスを考えてこのようなラインアップになりました。

『ジゼル』を新制作するにあたり、私はピーター・ライトさんの『ジゼル』で育ってきたので影響は受けていますが、コピーにはしたくありません。ダンサーたち皆に、私がピーターさんから習ったことを伝え、演じることの醍醐味を実感してほしいと思います。

美術のディック・バードさんはアイデアが豊富で、舞台となっている時代の絵画などからもインスピレーションを得てデザインを考えてくださっています。美術や衣裳からも様々なことが伝わるのではないかと期待しています。振付のアラスター・マリオットさんは私の現役時代、リーズのお母さんやシンデレラのお姉さんで一緒に舞台に立っていて、気心が知れ、私の好みをわかってくださっているという安心感があります。内容的には現代的なものではなくオーソドックスなものになります。

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『ジゼル』©Takuya Uchiyama
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(左より)ディック・バード、吉田都

――『ジゼル』で演じることにじっくりと向き合った後、新制作の『マクベス』が上演されます。ミュシャ作曲のバレエ音楽『マクベス組曲』に、ウィル・タケットさんの振付です。


吉田
 高円宮妃殿下に『マクベス組曲』をご紹介いただいたのがきっかけです。この組曲はバレエ音楽として作曲されたものですが、世に出るのは初めてだとのこと。こういう形で新作を制作するのは初めてなので嬉しいです。振付はクラシックベースにはなると思いますが、タケットさんにはいろいろなアイデアがあり、どういう仕上がりになってくるのか楽しみです。20~25人くらいの作品になりそうです。かなり強いキャラクターも出てきますので、演じることが重要になってくると思います。2021/2022シーズンにキャンセルになった『夏の夜の夢』と合わせて、「シェイクスピア・ダブルビル」としました。

「ニューイヤー・バレエ」でも、公演中止となった『A Million Kisses to my Skin』 に再挑戦します。デヴィッド・ドウソンの作品をやるなら彼に直接指導していただけるということがとても重要で、ダンサーには多くのことを吸収してもらいたいです。お正月なので華やかな『シンフォニー・イン・C』 と組み合わせました。

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『くるみ割り人形』

――『くるみ割り人形』は昨年から公演数が増え、年末年始も劇場でバレエを観て過ごす、新たなライフスタイルの提案にもなっています。


吉田
 日本だと12月25日を境にお正月一色になるので心配でしたが、三が日もたくさんのお客様がいらしてくださいました。年末年始の公演はこれからも続けて、定番にしていきたいと思っています。キャストも増えるので、新しいスタジオがフル回転になると思います。次の「ニューイヤー・バレエ」との間隔が短く、リハーサルも大変ですが、その意味でもチャレンジです。

『コッペリア』は前回は無観客で配信しましたがとても反響が大きかったので、今度こそお客様に劇場で観ていただきたい、という気持ちです。

――子どもたちや初めてバレエを観る方に向けては、エデュケーショナル・プログラム第2弾『白鳥の湖』があります。


吉田
 YouTubeなどで見られる映像は多くありますけれども、劇場に足を運んでいただかないとバレエの本当の良さはなかなか伝わりません。バレエや劇場にいらしていただきやすい企画として考えたのがエデュケーショナル・プログラムです。『コッペリア』の配信でも「この配信でバレエを初めて観ました」というコメントをずいぶんいただきました。バレエに触れていただく機会になればと思いますが、わかりやすさばかりを求めると、バレエ本来の良さを損なってしまうのではないかと葛藤もあります。古典バレエの良さは残しておきたいので、見どころを繋いで構成するのではなく、1幕分をきちんと上演する予定です。残念ながら中止となりましたが2月に予定していた『ようこそシンデレラのお城へ』は第二幕、今度の『白鳥の湖』は第3幕をほぼすべて上演する形式です。バレエとしての構成や流れは壊したくありません。

――先ほど『シンデレラ』で義姉たちのメイクを変えたお話がありましたが、演技の部分でも以前よりもソフトになっていたように感じました。子どもたちへの影響も意識されたのでしょうか。


吉田
 相手を押したり叩いたりするところはほぼカットされました。アシュトンの意図するところは意地悪だけど面白くて憎めないお義姉さんなので、怖く見えては方向性が変わってしまいます。指導のウェンディさんも、その点を意識してかなり変えていらっしゃいました。今の時代の子どもたちの目にどう映るのかを踏まえ、これからも長く上演できる演出になっています。

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『春の祭典』

――ダンスのラインアップについてはいかがでしょう。


吉田
 平山素子さんの『春の祭典』を再演します、またダンス・アーカイヴとして日本の洋舞をとりあげます。そういう過去の大切な作品を上演する一方で、『春の祭典』と同時に上演する『半獣神の午後』は新作で男性中心の作品となります。「DANCE to the Future 2023」 はお客様にも人気のあるシリーズですが、私自身も新たな発見があってとてもいいと思っています。ダンスでも再演と新作を良いバランスで上演することを意識しました。

――バレエ、ダンス共に新シーズンがとても楽しみです。どうもありがとうございました。

新国立劇場・情報誌 ジ・アトレ7月号掲載