芸術監督からのメッセージ
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2023/2024シーズンは新国立劇場バレエ団の発展に尽力してくださった歴代の芸術監督へのオマージュを込め、開場25周年を迎えたバレエ団の集大成となるようなラインアップといたしました。
まずは島田廣初代芸術監督が熱い想いを持ってレパートリー入りされた『ドン・キホーテ』。初演時にゲスト主演させていただきましたので、私個人としても思い出深い作品です。牧阿佐美元芸術監督が新国立劇場で初めて改訂振付された『ラ・バヤデール』は、世界に誇るべき美しいプロダクションです。『アラジン』はデヴィッド・ビントレー元芸術監督が新国立劇場のために振り付けたオリジナル作品で、その後海外でも上演されております。そして大原永子前芸術監督が新制作された『ホフマン物語』。ご自身も3人のヒロインを踊られた経験があり、今回もご指導いただく予定です。
バレエ団の宝物であるこれらの作品を通して、バレエ団が辿ってきた歴史と、歴代の監督の献身によって成長した成果を皆さまにご覧いただきたく存じます。
また今シーズンは新しい試みとして、優れた若手ダンサーたちにスポットライトを当てるガラ公演も企画しています。その他、森山開次さんが「こどもも大人も楽しめるダンス」として新国立劇場へ創ってくださった、大切な財産である『NINJA』をお届けいたします。
芸術監督を拝命して2年半、ビジョンとして掲げましたダンサーの環境の整備は、皆さまの心強いお力添え、そして劇場のバックアップ体制の強化により着実に前進しております。
まず、医療体制の充実です。怪我など不測の事態が起きた際、速やかに提携医療機関を受診し、随時、医療機関より回復の経過を劇場に報告いただける体制となりました。
次に報酬をダンサーがより安心してリハーサル・舞台に臨めるようなシステムへ変更いたしました。報酬は固定報酬と、公演ごとに支払う出演料の二層構造となっておりますが、固定報酬の割合を増やすことで、公演中止や怪我、体調不良などがあっても一定の収入を得ることができるようになりました。
そして、かねてより必要性を訴えてきました新しいスタジオが今夏の開設を目指して準備されています。新スタジオがオープンしますと、リハーサルのスケジュールを効率よく組み公演回数を増やすことができますし、よりバラエティに富んだキャスティングが期待できます。ゆくゆくは、このスタジオでお客様との交流イベントなども開催したいと考えております。
それでもなお課題は尽きませんが、これまでの改革がもたらしたダンサーへの影響は目指すべき方向が間違っていないと確信できるものです。引き続き、さらなる改善を目指すことでバレエ団の成長を促し、ひいては日本のバレエ界に良い影響をもたらす流れができることを目標に尽力していく所存です。
現在、世界中がコロナ禍だけでなく、戦争や経済の混乱で大きな困難に直面しています。日々の生活で不安を感じられている方も多いことでしょう。新国立劇場も例外ではなく、これまで通りの運営が難しくなっており、残念ながら今シーズンは従来よりも演目数を減らし、新作の上演も見送ることとなりました。
しかしながら、芸術は日々の不安を和らげ、情緒を豊かにすることができますから、今だからこそ重要な意味を持つと信じております。加えて就任直後、皆さまに劇場に足を運んでいただけない歯がゆさを経験したことで、公演が行えること、そして観に来てくださるお客様がいらっしゃることの有難さを身に染みて感じております。皆さまにお楽しみいただけるよう、バレエ団一同、最大限心を尽くしてお届けいたします。
舞台芸術は人間が創り出すものですから、同じ演目であっても毎回、同じものがステージに現れることはありません。ご覧になるお客様は常に一期一会の瞬間に立ち会っていらっしゃると言えるでしょう。是非ともダンサーたちの「生命の輝き」を劇場で共有いただきたく、皆さまのお越しを心よりお待ちしております。
舞踊芸術監督 吉田都
舞踊芸術監督 吉田都
2023/2024シーズンは新国立劇場バレエ団の発展に尽力してくださった歴代の芸術監督へのオマージュを込め、開場25周年を迎えたバレエ団の集大成となるようなラインアップといたしました。
まずは島田廣初代芸術監督が熱い想いを持ってレパートリー入りされた『ドン・キホーテ』。初演時にゲスト主演させていただきましたので、私個人としても思い出深い作品です。牧阿佐美元芸術監督が新国立劇場で初めて改訂振付された『ラ・バヤデール』は、世界に誇るべき美しいプロダクションです。『アラジン』はデヴィッド・ビントレー元芸術監督が新国立劇場のために振り付けたオリジナル作品で、その後海外でも上演されております。そして大原永子前芸術監督が新制作された『ホフマン物語』。ご自身も3人のヒロインを踊られた経験があり、今回もご指導いただく予定です。
バレエ団の宝物であるこれらの作品を通して、バレエ団が辿ってきた歴史と、歴代の監督の献身によって成長した成果を皆さまにご覧いただきたく存じます。
また今シーズンは新しい試みとして、優れた若手ダンサーたちにスポットライトを当てるガラ公演も企画しています。その他、森山開次さんが「こどもも大人も楽しめるダンス」として新国立劇場へ創ってくださった、大切な財産である『NINJA』をお届けいたします。
芸術監督を拝命して2年半、ビジョンとして掲げましたダンサーの環境の整備は、皆さまの心強いお力添え、そして劇場のバックアップ体制の強化により着実に前進しております。
まず、医療体制の充実です。怪我など不測の事態が起きた際、速やかに提携医療機関を受診し、随時、医療機関より回復の経過を劇場に報告いただける体制となりました。
次に報酬をダンサーがより安心してリハーサル・舞台に臨めるようなシステムへ変更いたしました。報酬は固定報酬と、公演ごとに支払う出演料の二層構造となっておりますが、固定報酬の割合を増やすことで、公演中止や怪我、体調不良などがあっても一定の収入を得ることができるようになりました。
そして、かねてより必要性を訴えてきました新しいスタジオが今夏の開設を目指して準備されています。新スタジオがオープンしますと、リハーサルのスケジュールを効率よく組み公演回数を増やすことができますし、よりバラエティに富んだキャスティングが期待できます。ゆくゆくは、このスタジオでお客様との交流イベントなども開催したいと考えております。
それでもなお課題は尽きませんが、これまでの改革がもたらしたダンサーへの影響は目指すべき方向が間違っていないと確信できるものです。引き続き、さらなる改善を目指すことでバレエ団の成長を促し、ひいては日本のバレエ界に良い影響をもたらす流れができることを目標に尽力していく所存です。
現在、世界中がコロナ禍だけでなく、戦争や経済の混乱で大きな困難に直面しています。日々の生活で不安を感じられている方も多いことでしょう。新国立劇場も例外ではなく、これまで通りの運営が難しくなっており、残念ながら今シーズンは従来よりも演目数を減らし、新作の上演も見送ることとなりました。
しかしながら、芸術は日々の不安を和らげ、情緒を豊かにすることができますから、今だからこそ重要な意味を持つと信じております。加えて就任直後、皆さまに劇場に足を運んでいただけない歯がゆさを経験したことで、公演が行えること、そして観に来てくださるお客様がいらっしゃることの有難さを身に染みて感じております。皆さまにお楽しみいただけるよう、バレエ団一同、最大限心を尽くしてお届けいたします。
舞台芸術は人間が創り出すものですから、同じ演目であっても毎回、同じものがステージに現れることはありません。ご覧になるお客様は常に一期一会の瞬間に立ち会っていらっしゃると言えるでしょう。是非ともダンサーたちの「生命の輝き」を劇場で共有いただきたく、皆さまのお越しを心よりお待ちしております。
プロフィール
9歳でバレエを習い始め、1983年ローザンヌ国際バレエコンクールでローザンヌ賞受賞。同年、英国ロイヤルバレエ学校に留学。84年、サドラーズウェルズ・ロイヤルバレエ(現バーミンガム・ロイヤルバレエ)へ芸術監督ピーター・ライトに認められて入団。88年にプリンシパル昇格。95年に英国ロイヤルバレエへプリンシパルとして移籍、2010年に退団するまで英国で計22年にわたり最高位プリンシパルを務める。
日本国内では1997年の開場記念公演『眠れる森の美女』をはじめ、新国立劇場バレエ公演での99年『ドン・キホーテ』『シンデレラ』、2000年『ラ・シルフィード』、04年『ライモンダ』ほか、数多くの公演に主演している。
ローザンヌ国際バレエコンクール審査員を務めるほか、後進の育成にも力を注いでいる。バレリーナとしての功績と共にチャリティ活動を通じた社会貢献が認められ、04年「ユネスコ平和芸術家」に任命される。12年には国連UNHCR協会国連難民親善アーティストに任命。
01年芸術選奨文部科学大臣賞、06年英国最優秀女性ダンサー賞、11年第52回毎日芸術賞など受賞多数。07年に紫綬褒章並びに大英帝国勲章(OBE)受賞、17年文化功労者、19年菊池寛賞、24年より日本芸術院会員。
20年9月より新国立劇場舞踊芸術監督。